彼女はお盆にだけ帰ってくる。

沢谷 天陸

おかえり....、そしてまた来年。

「ねぇおきて!起きろってば!」

「ん...?」

聞き覚えのある声に起こされた。

「朝だよ!せっかくの夏休みなんだし、出かけようよ!」

そんな提案に思わず、

「あぁ、行こうか」

と返事をしてしまった。








そうして連れて行かれたのは、近くにある浜辺だった。

「着いたよ、海。ずっと来たかったんでしょ?」

「そんなこと言ったか?」

「ほ〜ら〜、寝ぼけてないで行くよ!朝だからまだあんまり人いないし、今のうちだよ!」

「…そうだな」

彼女はなんの抵抗もなく、海に入った。

「あはは!やっぱり朝だからちょっと冷たいね!」

「そうだな」

俺はその姿を見ているだけで幸せになった気がした。






「よし!次何したいんだっけ?お祭り行って、花火見て、スイカ割りして、かき氷食べて、星も見に行きたいんだっけ?」

彼女はそう元気そうに俺のやりたかったことをやろうと提案してくれた。しかし…。

「…別にいいや」

俺はそう言った。

わかっているからだ。

「どうして?」

そう彼女は俺に聞いてきた。そして全部やろうよと言ってくれた。

「全部…。お前とがよかった。」

俺はそう言った。彼女は俺の届かない、知らない世界で生きているのだ。だから…。

「そっか….。」

そう言う彼女を見ると、彼女は泣いていた。そして

「ごめんね。」

そう言い残して、また自分の世界へ戻っていった。

その戻っていく彼女の欠片に俺は、

「また、来年な。」そう言って彼女を見送った。

家に帰って、親がこう言った。

「おかえり。あの子のお参りには行ったのかい?今日は盆だろ?」

「あぁ、会ってきたよ。」

「どうだった?」

「元気そうだったよ。それに楽しそうだった。」

「そうかい。よかったね。」

そういわれた瞬間、目から涙が流れ落ちた。俺はその涙を拭くことなく、流し続けた。

それが唯一俺ができる、彼女へのとむらいだと思ったからだった。

そして俺は来年、彼女に恥じないように今年を生きる。



彼女は来年も、俺の元に帰ってくれるだろうか...

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彼女はお盆にだけ帰ってくる。 沢谷 天陸 @sawatani

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