5-1.極道と暗殺者
アロガ王のリベンジ
「あの
玉座のアロガ王は、
見知らぬ森に全裸で放置されていたアロガ王、なんとか事なきを得て、無事に生還は果たしていたが、あの一件以来、常にイライラしており、機嫌が悪い。
「思い出しだけでも、はらわたが煮え繰り返って来るわっ」
「必ず追い詰めて、八つ裂きにしてくれるっ」
「御意」「御意」「御意」
怒り心頭に発するアロガ王に、いつものごとく三卿が相槌を打つ。
「なんでも、あのとんでもない勇者が、今度は大陸統一教会にも喧嘩を売ったそうでございますな……もはや、とても正気の沙汰とは思えません」
インテリ気取りの自称頭脳派、痩身のボヤルド・ツキー卿。
「そのせいで、マジアリエンナのムクロガ司祭が失脚することになったとか……後任は、助祭であったシャナブルが、そのまま引き継ぐことになるでありましょうな」
筋肉マッチョの自称武闘派、巨漢のトンドル・ズラーチェ卿。
「なるほど、それでシャナブルとかいう男は、以前からこちら側にコンタクトを取って来ていたという訳ですか」
ナルシストの自称貴公子、ヤサ男のドロリー・アンジョ卿。
石動の一件では、部屋の片隅で小さくなって震えていただけなのに、今もしれっと側近として宮廷内で偉そうな顔をしている三卿達。
さすがに、王が全裸で発見されたことは、この三人の間でも触れてはいけないタブーとなっているが、武士の情けということか。
「おそらく教皇に
ムクロガも教皇の座を狙っておったからな」
「過ぎた野心は身を滅ぼすか」
「その点、我がアロガエンスは、陛下あってこその覇権国家。陛下の代わりが務まる者など、あろう筈がございません」
少しでも自分の印象を良くしようと、いつものようにおべっかをはじめるボヤルド卿。
「まったくでございますな、この私めも、いついかなる時でも、陛下のために、この身を捧げる所存」
それに乗っかるトンドル卿。
「いえいえ、陛下を思う気持ちなら、この私めも決して劣りはしませぬ」
ドロリー卿も負けてはいない。
「もうよいわっ、このたわけどもがっ」
最近は、いつもアロガ王の機嫌が悪いので、この三人もどうにも調子に乗れない。
「して、王冠はどうなったのだっ!?」
「い、いえ、それがですね……」
「な、なんと申しましょうか……」
「そ、そうでございますね……」
王の問いに、歯切れの悪い三卿。
「そうですな、この際、王冠は新調されてはいかがでしょうか?」
「おぉっ、確かに、これまでのは、いささか古くなっておられた」
「今風にリニューアル、イメージチェンジ、よろしいですなぁ」
「ええいっ!このっ、馬鹿者どもめがっ!!」
「あれこそは、まさしく、アロガエンスの正統な王位後継者としての証、王家の至宝ぞっ」
『ええーっ!』
『なんで、そんな大事なもの、普段使いしてたのぉっ!?』
さすがにこの時ばかりは、三人とも同じことを思った。
「それなのですが、諜報部の者達によると……どうも、もうすでに隣国に売られてしまっているようでございまして……」
「隣国の闇マーケットでは、アロガエンスの王冠が売りに出されていると、噂が出はじめているとか、いないとか」
ボヤルド卿の次に、トンドル卿が話をつなぐ。
「確かに、あの数日後に、勇者とその仲間だと思われる者が、ゼガンダリアとの国境に配備されている警備軍を壊滅させ、隣国に入ったとの報告がございました」
「そして、さらにその数日後、勇者一行がまた国境を越えて、アロガエンスに入って来たことも確認いたしております」
最後をドロリ―卿が締める。
「隣国のゼガンダリアは、敵対国とは言え、今は休戦中でございますので、大っぴらに我が国の兵などを送ることは出来ませんし……」
「それに、もし万一、勇者に王冠が盗まれ、売られたなどと、公にでもなったりしたら、それこそアロガエンス王国の権威が地に落ち、陛下の名誉にも傷がついてしまいます」
「今は、諜報部の者達が隣国に潜入し、行方を追ってございます故、
三卿も単なる無能ではなく、それなりにやることはやっていてたのだが、報告を受けてもなお、アロガ王の逆鱗はおさまる気配がない。もはや、怒りのあまり、理不尽に当たり散らしはじめる。
「この馬鹿者どもめがっ!! 王家の至宝である王冠を盗まれただけではなく、まだ取り戻せぬとは、なんたる失態っ!!」
『ええーっ!』
『そもそも、盗まれたのはあなたでしょぉっ!?』
ここでもやはり、三人は同じことを思った。
「あの忌々しき、勇者めがっ!!」
そして、結局のところ、このセリフに行き着く。
「早く、あの
「それが、諜報部の者達が、現在消息を追っておりますが、マジアリエンナを出た後は、アロガエンスの
ボヤルド卿の言葉に反応するトンドル卿。
「外地の部隊などはあてになりませんからな、となれば、本国より大部隊を送るより他にありませんが……」
トンドル卿は、侵略により支配下となった外地を見下す傾向が強い。
さすがに、隣国ゼガンダリアとの再戦を前に、本国から勇者討伐の大部隊を送る訳にはいかないことは、いくら武闘派のアロガ王でも重々承知している。
「ええいっ! 何か、何か策はないのかっ!?」
アロガ王の、その言葉を待っていたドロリ―卿。
「陛下、どうかご安心ください……」
「このドロリー・アンジョに秘策がございます」
「どういたす気だっ!?」
「暗殺、でございます」
「勇者を暗殺するのでございます」
「このドロリー・アンジョ、こういうこともあろうかと、かねてより暗殺者を用意しておりました」
本来は、誰を暗殺する気だったのか、分かったものではない。
「その者なら、きっとアロガ王のご期待に沿えましょう」
ボヤドル卿とトンドル卿は、猛烈に反対する。当然、このままではドロリ―卿に出し抜かれてしまうからだ。
「そのような、卑劣な手段を使うとは……」
「貴殿は、アロガ王の名誉に泥を塗るおつもりかっ!?」
「いいえ、これは陛下の
「このドロリー・アンジョが、独断で行うことにてございます」
「このドロリー・アンジョ、敢えて卑怯者、卑劣漢の
「うむ、なかなか見事な、忠心である」
『クソッ、完全に、してやられたわっ』
この時、同じことを思ったのは、ボヤドル卿とトンドル卿の二人だけだった。
-
「この書簡を、早急に教皇のもとへ」
大聖堂の執務室で、司祭代理のシャナブルは、自らがしたためた書簡を部下に託した。
この大陸唯一の宗教国家・パルビオンに居る教皇ザギレ・ビオンに、勇者とムクロガ司祭の一件を伝えるために他ならない。
パルビオンは小国でありながら、アロガ王ですら不可侵の約定を交わした、大陸統一教会の聖地。
「さて、一体どうしたものか……」
シャナブルは、椅子に座ったまま、頬杖をついて考えを巡らす。
――勇者達を『神の使い』を名乗る大罪人として、処罰しようとしたこと、初手としては、それは悪いものではなかった
しかし、あれだけの奇跡を見せられてしまった後では、あの勇者一行がアリエーネ様と何かしらの関係があることは明白、そこはもはや否定が出来ない
パルビオン本国には、最強の精鋭部隊と謳われるクルセイダースが居るには居るが……果たして、勇者とどちらが、アリエーネ様の加護が強いものか
いずれにせよ、今後、教会としては、表立って勇者とは対立出来ないであろうな
――いっそ、勇者を『神の使い』と認定して、我々教会が迎え入れるという手もあるが……
聖職者とは名ばかりの、権力闘争と利権が渦巻く
――だが、このまま放置しておけば、いずれ勇者を神格化して、崇拝する者達が必ず現れるだろう
勇者というだけあって、あの男には、それぐらいのカリスマ性は備わっている
教会の権威が多少下がるだけならまだしも、教会内部が二分される危険性すらある
「……教祖は二人も必要無いのだよ」
――いっそ、アロガ王が勇者を討ってくれればよいのだが……
いくら数が違うとは言え、勇者のあれだけの能力を持つ以上、真っ向からやり合えば、アロガエンス王国も相当の被害を出すことになるだろう
――やはり、勇者を暗殺するということになるか……
それもまた、あの者達を遣わしたアリエーネ様の御心に背くということになる……
このような考えに至るとは、私もつくづく業の深い男だ……私が死んでも、天に召されるということは、有り得ないことなのであろうな
奇しくも両陣営共に、勇者は暗殺するしかないという結論に辿り着く。
-
「ヒャッハー!!」
荒野を走る二台の馬車。その後を追い掛かる馬群。
馬上には、絵に描いたような、モヒカン、上半身裸の男達。
マサの目論見通り、教会は、とても逃げた女達に追っ手を出せるような状況ではなかったが、その代わりに、奴隷狩りの野党に追い掛けられていた。
「おうっ、そうそう、これだよ、これっ」
「こういうのでいいんだよっ」
この状況でも、生き生きと目を輝かせている
「小難しい話ってのは、俺の
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