一匹狼を気取りたかった勇者

「異世界の酒も、まぁ悪くはねえな」


酒場でマサと二人、酒を飲み続ける石動不動いするぎふどう


「よくは分からねえが、

まぁ、ここまではいいとしよう」


「それでだ、結局、俺らをここに寄こして何をさせたいんだ?あのクソアマは」


威勢会いせいかいの連中と合流して、力を合わせて、何かミッションをクリアしろとか、そんなところなんじゃないですかね」


「なんだよ? そのミッションってのは?」


「そこまでは分かりませんが……ただ、あの転生の間ってとこには真央連合まおうれんごうの奴らも居ましたからね……」


「まぁ、いずれにしてもだ、

あんまり、気がのらねえな」


「あのクソアマもあれだが……

そもそも神ってのにいいように使われるのが、どうも気に入らねえ」


「そうですね……」

「ですが、せめて、威勢会いせいかいの連中とは合流したほうがいいかと」


「…………。」


そこでしばらく黙り込む石動。


心中を察するマサもそれ以上は何も言わない。


「なあ、マサよ」


再び口を開いた石動の言葉は、マサが薄々感じていたことではあった。


「俺は極道なんて縦社会に身を置いちゃあいたが……」


「本当は、群れを成した生きて行くのは大嫌いでな。まぁ、本心じゃあ、一匹狼を気取って生きていたいなんて思ってんだよ」


「知ってますよ」


「独りで黙って親の仇を討ちに行くような人ですからね、若頭は。もうずっと前から知ってましたよ」


黙っている石動に、マサは言葉を続ける。


「ただ、若頭が、自分を頼って来た力なき弱者を見捨てられない人だってことも知ってます」


「そんないいもんじゃねえよ」


「そりゃ、若頭なら、この世界で独りで生き抜いて行くことも出来るでしょう」


「ですがね、他の連中はいくら生命エネルギーが強いと言っても、ここで独りで生き残ることは難しいんですよ、まぁそれは私も含めてですがね……」


 ――俺を慕ってくれる連中には悪いが……


 正直、俺は他人にそんなに期待なんぞしちゃいねえ。まぁ、生まれた時から親に裏切られてるからな。


 心のどこかでは、人と人のつながりだとか、そんなもんどうでもいいとも思っている、それが本音だ。


 ただ……


 あの時、俺のクソ親どもが死んじまったあの時、まだ子供ガキで圧倒的弱者だった俺を親父オヤジは見捨てることはしなかった……


 あの時、親父は言っていた……


 『おめえの父親は確かにヤク中で、人間のくずだったかもしれない。だが、組のためによく働いてくれていた。そのせがれが独りで行くあてもなく路頭に迷ってるってえのなら、放っておく訳にはいかねえ。それもまた任侠ってもんだ』


 正直なところ、俺にはまだ任侠の本質が何なのかすら分かっちゃいねえ……


 ただ……


「ただ、俺は親父の言葉を守ってるだけだ……」


「それにな、勝手に人のこと美化すんじゃねえよ。

弱者を助けるとかそんな正義のヒーローみたいなもんじゃねえ……」


「俺が気に入るか、気に入らないか、ただそれだけだ」


石動は目の前にある盃の酒を一気にあおる。


-


異世界の酒が強かったのか、思いの外酔ったマサは、普段の冷静でクールなイメージには似つかわしくないような身の上話をはじめた。


「若頭もご存知の通り、私は捨て子で親の顔も知らず、物心ついた時にはすでに孤児院にいました」


「この先ずっと、社会の偏見と戦って、独りで生きて行くには、勉強を頑張って偉くなるしかないと、そう信じていました」


「それで、いつか自分を捨てた親や世の中を見返してやりたいとか、仕返ししてやりたいとか、そんなことを考えていたんですよ」


「だけど、日本で一番いい大学を出たものの、自分には何かが足りない、ずっとそういう思いがありまして……」


「自分に何が足りないか?

それが若頭に会って、ようやく分かったんですよ」


「芯があって、筋を通すために、世の中といがみ合うのと、ただ単に世の中を見返したいだけで、芯がないのじゃあ、似ているようでまるで違うってことに」


「だから、私は若頭の芯の通った生き方に一緒について行こうと決めたんです」


「若頭の芯を通すためなら、命をはれるような男になろうって」


「他の連中だって、多かれ少なかれ、みんなそうなですよ……サブも、アイゼンも」


珍しく気まずそうな顔をしている石動。

酔ったフリをしたマサに諭されているような気もしてくる。


 ――くえねえ、賢者だな

 いや、賢者ってのはこういうもんなのか


望んでいる生き方と、望まれている生き方、どうするべきか。


もう一度、石動は目の前にある盃の酒を一気にあおった。


-


「まぁ、とりあえず、まずはこの王冠とやらを、隣の国にでも売りに行こうぜ」


石動の言葉で、アロガエンス王国の隣国についてノートパソコンで調べはじめるマサ。


「アロガエンス王国はすでに周辺の弱小国は占領して領土にしていますから」


「その隣国となると……人間領第二勢力のゼガンダリアという国になりますかね」


「まぁ、あの王さんのことだからな、自分の王冠が隣の敵国に渡ったと知ったら、そりゃエライことになるだろうな」


それによって、大国同士の戦争は激化するかもしれないが、そうなればアロガ王も石動ばかりを気にしてばかりではいられなくなる。案外いい作戦なのかもしれないとマサも感じていた。



「ところで若頭、この店に払う金持ってますか?」


石動はスーツのポケットに入れてあった指輪の一つを取り出した。


「じゃぁ、これで払っといてくれ」


だが、しばらくするとマサが指輪を持ったまま戻って来る。


「こんな高価な指輪出されても、この店を売り払ってもお釣りが返せないと言ってますけど」


「なんだ、随分と正直者の店主だな」

「じゃぁ、タダにしろって、言っておいてくれ」


 ――若頭って、金には妙にセコいとこあるんだよなぁ、昔から

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