第3話

俺はあのチョメチョメ事件のあと普通に一日を過ごした。


ここで小田倉に対してなにか牽制などできていればかっこいいものだが生憎なにも出来なかった。


その代わりと言っては何だが協力者2人に放課後俺の家に来るように連絡は入れてある。


そのため俺は帰りのホームルームが終わると早足に帰宅した。




俺が家について30分程度してから玄関の扉の開かれる音が鳴る。




「おーい、翼ー。部屋向かっていいんだよなー?」




「おーう。2人とも上がってきてくれ~」




俺は少し大きめの声で返事をすると、2人を2階の俺の部屋に来るように促す。




ガチャ。




「うーっす翼」




「こんにちわ翼くん」




「おっす2人とも。とりあえず座ってくれ」




目の前に現れたのは毎日見る金髪男と煌びやかな黒髪を持つ女の子。


俺は2人を床に座るように言う。


残念ながら俺の部屋には椅子が1つしかない。


2人には悪いが床に座ってもらうことになる。


でも安心してくれ。


さすがに俺も床に座る。




「んで翼。話したいことってなんだ?」




「奏斗、花ちゃん。2人に話しておきたいことがある」




みんな察しがついていたと思うが協力者の2人というのは奏斗とその彼女花ちゃんだ。


今日は花ちゃんの委員会の仕事がないと聞いたのでさっそく今日集まってもらった。




「まずはこれを聞いてほしい。言葉で説明するよりか手っ取り早いと思う。ちょっといろいろ心ぐるしいと思うから花ちゃんは聞きたくなかったら廊下に出てもらって構わないけどどうする?」




「大丈夫。翼くんが急に呼ぶなんて大ごとなんだろうけど奏斗くんも聞くんだから私も聞く」




「そうか。わかった。じゃあまず数十秒の音声だけどきいてほしい」




俺はスマホに録音したチョメチョメ事件の証拠品を流す。




最初は女子の艶やかで色気のある喘ぎ声に奏斗はニヤニヤを必死に押し殺し、花ちゃんは顔を真っ赤に染めていた。


でも、小田倉が催眠云々の独り言をつぶやき始めてからは2人とも顔が真剣そのものに変わる。


奏斗は眉間にしわを寄せ、花ちゃんは終始無表情だった。




音声の再生が終わると一番初めに声を出したのは奏斗だった。




「なるほどね。結局、お前の嫌な予感が的中したと・・・」




「あぁ。催眠使ってるとまでは思わなかったけど」




「奏斗くんも翼くんもこの2人が誰か知ってるの?」




そっか。


花ちゃんにはここ最近のことを話してなかった。


協力してもらうためにも話しておく必要があるな。




それから俺は花ちゃんに俺が夏休み明けに感じていた自分のクラスの小田倉という男子についての不信感、嫌な予感などすべてを話した。


もちろん俺が2人のあとをつけて遭遇した音声のことも。




「じゃあその小田倉って人が変な力を使って女子の体を弄んでるってこと?」




「うん、そういうことになるかな。正確に言えば心もだけど」




「そんなの許せないっ!!」




「おい、花落ち着けって」




鬼のような形相をして怒りを露にする花ちゃんを奏斗がなだめる。




「あっ、ごめん・・・。でもどうしても許せなくて」




「気にするな。俺も同じだ。なぁ翼、お前は小田倉をどうするつもりなんだ?」




ナイス奏斗。


良い質問だ。


満点を上げよう。


俺は奏斗の視線を受け止めながら、俺の到達地点を話す。




「俺は・・・・あいつに罪を償ってほしい。いや、そんなのきれいごとだな。ごめん。俺はあいつを粛正したい。催眠なんてしたことを後悔するくらいの絶望を味わわせたい」




「「・・・・・・・・・・・」」




俺のこの言葉を聞いて、2人は押し黙る。




2人が言葉を発するよりも先に俺は口を動かす。




「だからできれば2人にも協力してほしい。無茶なお願いだってわかってる。それでも俺はあの5人を助けたい。あいつだけは絶対に許せないんだ。だから頼む」




俺は目のまえの2人に頭を下げる。


俺が奏斗に頭を下げたのはいつ以来のことだろうか。


中二のときのストーカー事件だったか?


とにかく俺が奏斗に頭を下げることはそう多くない。




じっと頭を下げたまま2人の返事を待っている俺の肩に少しの重みを感じた。


顔を上げると奏斗が自分の右手を俺の肩において相変わらずのイケメン顔で微笑んでいた。




「当たり前じゃねぇか。お前が困ってるんなら助ける。それが親友ってもんだろ?それに花が狙われるかもしれないしな。俺も諸悪の根源は潰しておきたい」




「奏斗・・・・。さすが俺の親友だな」




「だろ?惚れてくれてもいいんだぜ?」




「それは遠慮しとく」




お前ってやつは・・・・。


俺は最高の親友を持ててうれしいよ。


涙出そう。




「ちょっと2人とも!私もいる!」




奏斗と友情の再確認をしていると後ろの花ちゃんが頬をプクッーっと膨らませいている。




「あ、ごめん花ちゃん」




「もう!私も協力するからね!あんな女子の敵はほおっておけないよ!」




「花ちゃんもありがとう。俺は良い友達を持ったもんだよほんとに」




「お前今更かよ」




「うるせぇ」




3人で笑いあう。


俺は今すごく青春を感じた。




ふと窓の外を見ると綺麗だった夕日も消え、日が沈みかけている。




「さて、そろそろ本題に入るぞ。翼、まさかとは思うが5人同時に救おうなんて無謀なことは考えてないだろうな?」




3人とも笑い終わって少しの沈黙の間に奏斗が切り込んでくる。




「・・・・・・・あぁ。5人一気には無理だと思ってる」




助けると意気込んだものの5人一気にはさすがに無理がある。


タイミングなどその他もろもろが完璧に組み合わないと成功しない。


そんなに待っていると時間がいくらあっても足りない。


だから救出作戦は基本一人一人を個別に助けていくこととなる。


こればかりはしょうがないことなのだ。


5人には申し訳ないが。




「ならまずは誰を助けるの?」




そうそこ。


大事なところはそこなのだ。




誰を最初に助けるか。




これが現在俺の中での最大の悩みの種だ。




「それがいまめちゃくちゃ悩んでるんだ」




今日この2人を待ってる間もずっと考えていた。




生徒会長か同じクラスの女子かギャルか後輩か他クラスの女子か。




個人的には生徒会長がいいかと思ってたりもする。




いろいろと協力してくれそうだから。




俺がううーんと頭を悩ませていると




「俺は中野真実がいいと思う」




「そのこころは?」




「お前がギャル好きだから」




「なめてんだろお前!?」




確かに普段ちゃらちゃらしてる女子が時たま見せる照れる表情とかはすごいギャップ萌えしちゃうけども!!!




「冗談だ冗談。なんで中野かっていうとあいつは翼が思ってる以上に人脈が広い。俺たちの学園に加え他校の友達もかなり多いって聞く。これだけ広い人脈があれば助けた後はかなり強い手札になると思うんだが。まぁ協力するかは知らんが」




「ううーん。でもなぁ」




そんなに簡単に決めしまっていいものなのか。


『慎重』


という言葉が脳裏を横切る。


そんな俺の優柔不断な俺の思考を断ち切るかのように奏斗が追い打ちをかける。




「翼、お前なにか勘違いしてないか?」




「え?」




「翼、例えばRPGで個々の能力の高さより人手の多い方が効率のいいクエスト、例えば採取クエストとかだな。それを受注するとなったとき、無条件でたくさんの味方を呼ぶことができるキャラクターか一人としての戦闘能力が高いキャラクターどっちかを仲間にできると言われたらどうする?」




「味方を呼べるキャラクターを選ぶ」




「だろ?それと同じでこの救出作戦は個々の力よりも圧倒的に人海戦術の方が合ってる。要するに何が言いたいかというと俺たちはとりあえず仲間を増やすべきということだ。それもたくさんの。友達が超絶多い中野はこの条件を満たしてくれると思うんだが」




確かに人数が多い方が作戦の幅は広がるし、やつを円状に取り囲んでいけるかもしれない。




「それに中野が味方になると他の4人を助け出す切り口になる可能性も高いしな」




「・・・・・・・・そうだな。今後のことも考えて中野をまずは助けよう。花ちゃんもそれでいいよね?」




「うん。私にもできることがあったらなんでも言ってね。力になるから」




「それじゃ早速翼、明日中野真実にコンタクトを取ってくれ。その間、俺と花で中野と小田倉の情報を入手してくる」




「分かった。明日から行動開始だ」




まずは中野真実を助ける。


とりあえずはそこからだ。


助け出して見せる。


絶対に。

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