催眠でハーレム構成しているクズ野郎の日常は俺がぶっ壊す

気候カナタ

第1話 

モテたい。




俺が切実にそう思ったのは小学校の卒業式だった。


俺のクラスには1人めちゃくちゃモテる男子がいた。


俺だって毎年バレンタインでは本命チョコを2~3個だが貰っていた。


俺だって人並み程度にはモテていたのだ。




でも、やつは違った。


やつは桁数が違ったのだ。


本命チョコは毎年50個を優に超えるほどで、習い事のサッカーの試合では毎回20人近くの女子が見に来ていたらしい。


顔はいいし、頭は良いし、スポーツは出来るし、性格もいいし。


とにかくそんないけ好かないやつだった。




でも、それだけのことじゃ俺の心に火はつかなかった。


ここまでモテたいという願いに対する渇望は存在することはなかった。


ただ、知ったのだ。


知ってしまったのだ。


卒業式のその日、俺の好きだった女の子とやつが付き合いだしたということを。




俺はやつに憤慨した。


怒りの矛先は完全に間違っている。


早く告らなかった俺が悪い。


恋愛は早い者勝ち。


彼らを止めることは出来ない。


そんなことは分かっていた。


でも、そうでもしないと俺の心は折れる寸前だった。


だからこそこの行き場のない怒りを俺の心の燃料へと変え、自分自身を変えることに決めたのだ。




意地でもやつよりモテてモテてモテてモテまくってやろうと。








◇◇◇








「おかしい。何かがおかしい」




夏休みもあけて約1ヶ月経ったというのに未だに鳴きやんでいないセミの鳴き声をバックに俺は教室で1人呟いた。




「なんでだ?いきなり過ぎないかこれ」




そうして教室の中で談笑している6人組へと目をやる。


男女比は男1に対して女5だ。


女子5人は全員モデルかとでも言うほどの美少女ばかり。


スタイル良し、顔良しの最早モデルだ。




対し男は丸々とした体型。


ギトギトした髪の毛にメガネ。


ブレザーの襟には大量の白いフケ。


そして口癖は「デュフフ」


なTheオタクである。


いや、これはオタクな人に失礼だ。


やつはめちゃくちゃ不潔感を抱かせるタイプのオタクだ。


正直見てるだけで不快感を催す。




俺がやつ、小田倉 茂雄おたくら しげおをジーッと凝視していると後ろからいきなり肩を叩かれる。




「ちょーっす!翼!なにしてんだ?」




「なんだ、奏斗か。いや、なに人間観察してるだけ」




こいつは中学からの親友で小学生の時に俺が好きだった女子の今カレでもある今井 奏斗。


容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、性格良しの四拍子揃ったいけ好かないやろうだ。




「人間観察てお前。お前ほどのやつなら女子なんてイチコロだろーに」




「いや、だからそういう意味じゃなくて・・・」




「でも、お前も変わったよなぁ。気づけばこんなイケメンになりやがってぇ。このぉ〜」




「うるせぇ。そして俺の頭をわしゃわしゃすんな。鬱陶しい」




こいつの言う通り俺は中学生になると同時に一気にイメチェンをした。


髪の毛を綺麗に切り、流行りの髪型にして、使ったことすらなかった化粧品に手を出し、勉強もめちゃくちゃした。


制服も校則にギリギリ引っかからない程度に着崩した。


そして気づけば引くほどにモテていた。


奏斗の比ではないほどにモテた。


他校の女子だって俺のことを見に来たりもする程にモテた。


というか最近までモテていた。


高1の時もめちゃくちゃ告られたし、高2の夏休み前までもめちゃくちゃ告られた。


でも、問題はそこなのだ。


夏休みが終わるとそこに特異点が存在していたのだ。




「ん?どしたん翼?そんな難しい顔して」




「・・・・・・帰り話すわ」




「ふーん。おーけー。っと、もう昼休み終わっちまう。トイレ行ってくるわ」




そして俺の謎は深まるばかりの中昼休みは終わってしまった。












そしてあっという間に放課後。


隣には奏斗がいる。




「てか、花ちゃんは良かったのか?」




「あー、花は委員会だってさ」




奏斗の彼女こと山田 花。


元俺の好きな人だ。


でも、今は完全に吹っ切れている。


さすがにこれだけ経てば時間が解決してくれた。




綺麗な夕暮れを見ながら2人で歩幅を合わせながら歩く。


俺はこの問題を話すべきか少し悩んでいた。


もしも俺の思いすぎだったら気持ち悪いからだ。


要はひよっていた。


でも、こいつは案外優しくないらしい。


奏斗が少しふーっとため息を付いてから俺の方に目だけをやり、話しかける。


歩みは止めない。




「んでどしたの?昼休みは」




「あぁ。その件だけどさ。最近おかしくないか?」




「んー。確かにおかしいとは感じていたけど。小田倉のことだろ?」




俺は少し躊躇いながら答える。




「あぁ。あいつなんで夏休みをあけた途端ここまでモテるようになったんだ?」




そう。


俺の抱える謎のうちの1つ。


それは小田倉の夏休み明けの異常なほどのモテようだ。


夏休みに入る前まで名前も知らなかったあの男。


それが夏休み明けの初日に5人の学園トップファイブ美少女を侍らせて登校していたからさすがに驚いた。


最初は幻覚かと思ったが周りの男子の反応も同じで現実だと知った。


その日学校では男子たちの間はあいつの話で持ち切りだった。


そして周りの女子はトップファイブに影響されるかのようにしきりにあいつに話しかけるようになった。




これがめちゃくちゃイケメンになっていたとか、全国模試1位だったとか筋肉マッチョになっていたとかだったら全然理解できる。


でも、あいつは何もしていない。


何も変わっていないのだ。


毎日授業は寝て、体育は隅でじっとしていて真面目に学校生活を送っていないのだ。


そのくせ異常なほどにモテる。


そこが俺にはすごく怪しく感じられた。


なにか裏があるんじゃないかと。




「性格がめちゃくちゃ良いんじゃねぇの?最高に優しいとか」




「うーん・・・・・」




もちろんその可能性だって考えた。


異性を見る際に性格というものはかなり大事だ。


実際俺も容姿より中身を大事にする。




でも、あそこまで不潔だとどれだけ性格が良くてもこうはならないんじゃないか。


最近読んだマンガの自称ロカボ巨乳女子が言っていた。




『相手を恋愛対象として見れるか否かは大抵の場合減点方式で判断するものです』




と。


俺もまさにその通りだと思った。


要するに初対面のイメージ時の持ち点を100点としてそこから性格、身だしなみ、顔面偏差値などの判定により減点され、最後に自分の手元に残った点数が自分のステータスということだ。


大人になるとこのほかに加え収入も審査対象に入るので、難儀なものだ。


でも、あいつは減点されるどころか最初からマイナスに吹っ切れている。


いくら聖人君子でもあそこまでの不潔さだったらここまでモテるはずがないのでは?




「うぅ〜ん。でもなぁ・・・・」




「どーせ、自分がモテないから心配してんだろー?」




「んなっ!ちげぇし!なんか変に思ってるだけだバカ!!」




「そうかぁ?まぁ、お前なら大丈夫大丈夫。俺には花がいるし問題なーい」




「うるせぇリア充。爆滅しろ」




「どうどう。ほんじゃここいらでお別れということで。see you again〜」




「はぁ・・・。んじゃな」




丁度別れ道に差し掛かったのでそのまま奏斗と反対側の道へと進む。


それでもやっぱり嫌な予感のようなものは拭えなかった。








翌日の昼休み。


いつも通り、奏斗と弁当を食べようとしていた時である。


小田倉と取り巻きの中の1人。


中野 真実が教室から出ていった。




そう。


これがもう1つの俺の抱える謎である。


小田倉は昼休みが来ると必ずトップファイブのうちの1人とどこかに向かうのだ。


それも月曜日は生徒会長の源 薫子。


火曜日は同じクラスの宮本 凛。


水曜日はギャルの中野 真実。


木曜日は後輩の一ノ瀬 沙也加。


金曜日は他クラスの毒舌女子如月 文と毎日人が違う。


そして約40分程度いなくなると授業開始の5分前には必ず戻ってくる。


この間小田倉たちの居場所を知る者は誰もいない。


むしろ誰も興味を持たなくなってきた気がするのも確かだ。




だが俺はこの空白の約40分が気になりまくっていた。




「翼、また見てんのお前?」




「あ、いやすまん。だめだな。どうも気になってしょうがない」




俺は無意識にも2人を目で追っていたらしい。




「はぁ。そんなに気になるんならみてくれば?そうしないとどーせ明日もするんだろ?」




「でもばれるかもしれない・・・」




「ばーかっ。誰がばれるようにしろっつったよ。尾行に決まってんだろうが。てか、ほら。早く行かないと見失うぞ」




「うーん。・・・んじゃばれないように行ってくる・・・」




「ほいほい。いてら~」




奏斗に唆されるような形になってしまったが俺は遂に2人の後を付けてみることにした。




でも思ってもいなかったんだ。


まさかあんなことになるなんて・・・。




この時の俺がこの後の状況を知るはずもなかった。 


  




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