滅びの少女

無限飛行

第1話 転生の門

私の名前はエステア、我が信奉する女神マリア様の忠実な天使。


女神マリア様は、この世界アーデアルで多大な善行により、人間から女神になった方だ。

私も、マリア様に認められて人間から天使になった。


マリアさまは大変慈悲深く、欲深い人間達が盲目的に願った事であっても、出来るだけ叶えてあげている。

特に家族の為の祈りは、その持てる神力を持って全力で叶えている。


なぜ、そこまで人間の願いを叶えるのか?

マリア様は慈愛と豊穣の女神、その力はあまねくアーデアルに均等に振り向けるべきだ。


一人の少女の魂が、この世界の外から女神のところに流れてきた。

かなり薄汚れている。


殺人を犯したり自殺した場合、その魂は汚れる。

だが、なんだ?この魂は?


魂の周りにさらに酷い汚れ、いや、これは呪いだ。

この魂は絶えず、周りの呪いによって汚される事を運命づけられている。


あらゆる愛に拒絶され、安寧が得られないよう仕組まれた呪い。

酷い事をする。

だが、呪った方もただでは済むまい。

人間ならば、永遠に地獄の業火に焼かれるだろう。


しかし妙だ?呪いから神力を感じる?

しかも、この神力、創造神様に似ている。


ありえない。


神がなんであれ、呪いを使う事は禁忌だ。

使った神の神格は地に落ち、邪神となって正気を失う。


どちらにしてもこの魂の行く末は、マリア様が決める事になる。

異世界からの魂は、神々のルールで慎重に扱う事になっているからだ。


だが、ここまで汚された魂の運命は、すでに決まっている。

浄化の炎に焼かれ、全ての記憶も消され、まっサラになった後、輪廻の流れに送られる。

完全に別の魂として生まれかわるのだ。


さあ、いつものように女神様に採択してもらおう。


「女神様、また、異世界から魂が流れつきました。かなり汚れているので、私の方で処理したいのですが宜しいでしょうか?」


「異世界から?いいえ、私が採択いたします。神々のルールは絶対です」


「は、出過ぎた事をいいました。申し訳ありません」


「いいえ、お前はまた、私の事を心配してそんな事を言ったのでしょう?いつも気遣いをありがとうね」


「い、いえ、当たり前の事ですので気になさらないで下さい」


ふう、相変わらずこの方は誰にでも優しい。

だからこそ、私の全てをかけて守らないと。

この方は隠しておられるが、罪人の魂に心ない言葉を受けるたび、お心を痛めている事を知っている。

女神の力で平静を保たれているが、私が極力、負荷を取り除かないといけない。


まもなく、女神様が魂の行く末を決める採択の場に異世界の魂が現れた。


「???!!!」


な、なんだ?女神様が激しく動揺している。

何が起きている?

いったい、この魂に何があるというのだ?


「あ、あなたは、死にました。あなたには、三つの選択肢があります。一つは、このまま輪廻の輪に入り、全ての記憶をリセットされ、次の転生が決まるまで魂の修行を行うコース。一つは、魂の修行を行わず、輪廻を放棄して分解され、他の方の魂の材料になる事。………この場合は、あなたの個は永遠に失われる。いわゆる、魂の死です」


「…………」


ここまでの女神様の話しで、大抵の魂は動揺し、罪人の魂は女神様に助けを懇願する。

だが、この魂は揺らぎがない?!まったく動揺していない?これほど汚れているのに、罪人ではないのか?


「最期の一つは、全てのスキルと能力をもらって、新しい肉体を授かり、生き直す事ができます。あなたの世界で流行りの異世界転生よ、ワクワクするでしょ?もちろん、剣と魔法の世界、ああ、特にやらなければならないお役目はないわ。のんびりスローライフを楽しむもよし、あなたの力を試すもよし、ああ、全スキル取得と魔力は無限にするから、何にでも成れる」


「め、女神様?!」


ば、ばかな?全スキルに魔力無限だと!?普通は、どんなに善行な魂でもスキル一つまでのはず、そんな力は神に近い者になってしまう。

しかも勇者でもなく、役目も与えない!?

あり得ない。

女神様は何を考えておいでだ?


「さあ、もう決まったも同然ね?ほら、今、言った順番に門が現れたわ。向かって一番右側が、さっき言った生き返れる門よ。間違わないでね」


「……………」


最後まで好条件の門に誘導って!?

女神様、やり過ぎでは?


だがなんだ、あの魂は?

躊躇いもなく真ん中の門に向かうぞ。

そんな、ばかな!


は?女神様が台座を降りて、魂の前を両手を広げて遮った???!


「駄目よ!言ったでしょ?ここは魂の死の門。ここに入ったら、転生もできずに貴女は永遠に失われる。間違わないで!」


「女神様、何故そこまでその魂に入れ込むのですか?門の選択を魂にさせる事は、創造神様のルールです。まして門への誘導は、もはやルールに抵触します」

「うるさい、お前は黙ってなさい!」


「め、女神様?!!」


あの罪人の魂にすら優しい女神様が、人が変わったように?いや、神が変わったように私を睨んだ!?


「お願い、この門は駄目なの!絶対駄目!」


魂はなおも、女神様を避けてまで中央の門に向かおうとする?何故だ?私は、魂の思考を確認したが、おかしい?思考が感じられない。深い絶望だけが強く有る?!

確かにこれだけ深い絶望なら、生にこだわれないだろうが、人間の短い一生の間でどうすれば、ここまでの絶望を持つ事ができるのか?


パキッ


は?なんの音だ?ここは女神様の神世界、音が聞こえるはずはないが?

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