第30話 詳らかに 前編

菅田は映像を眺めながら考えていた。


美緒が襲われた時間と田辺が見たという不審者、そして純子と広子の二人が本館に戻ってきた時間を考えるとどうしても時間的に無理がある。

純子と広子がもしチャペルで美緒と会っていたとしたら防犯カメラに映っていた時間に本館に戻ることは出来ない。

美緒の遺書には自分で落ちたと書かれていた。やはり、第三の女がいたということだ。

流れる映像をぼんやり見ていると見覚えのある顔が映っていた。



○○○

菅田は実家に来ていた。


先日、次の予定があった為、急いで荷物を纏めて一人暮らしをいているマンションへ戻った。

今日は、やっとギブスが取れたのでその報告がてら来ていた。


「ここに戻ってこないか?」


圭介はやはり息子に戻ってきてもらいたいようだ。


「どうせまた、どこかに移り住むのだろう。それならこのままでもいいよ」


菅田は今のホテルの仕事が大好きだ。その仕事を変えるつもりもどこかへ引っ越すつもりもない。


「もう引っ越さないよ」

「そんなこと言って、また新しいプロジェクトが始まったとか言ってどこかに行くのだろう。これまでのように」

「ここは試験的に作られた街だ。全国に同じような街が点在しているが、それが上手くいけばこの街を広げていくことになる。でもその時は出張という形になるからもうここを離れることはない」

「えっ。ずっとここに?」

「定年退職した後もここに住み続けることが出来る」

「本当に?」

「本当だ」


菅田は信じられなかった。

父の仕事の関係で小・中学校で五回転校した。両親には定住という言葉はないかのように父の仕事は全国を飛び回っていた。

それを身近に見てきた菅田は就職してこの地で過ごす時間がとても新鮮だった。


「嘘じゃないよね」

「こんなことで嘘を言ってどうする」

「高梨さんは一人暮らしをしているよね。父さんたちも子供といっしょにじゃなくて母さんと二人で暮らせばいいと思うよ」

「高梨は離婚したんだよ」


そういえば言っていなかったなと圭介が付け加えた。


「娘さんは別で暮らしているんだよね」


菅田は以前見た高梨の机にあった写真を思い出した。


「娘さんは亡くなったはずだよ」

「亡くなった?」


高梨は別のところで暮らしていると言っていたはずだ。


「確か、ゆうかちゃんと言ったかな」


高梨はもう娘さんと一緒に住めないんだよと圭介は寂しそうに言った。



○○○

「菅田さん、集まりましたよ」


鍋島が副支配人室にやって来て、菅田の頼んだものを見せた。

テーブルに並べられた写真を見て、菅田は記憶を総動員していた。


集められた写真は瀬田の事件に関わりのある人たちだ。一回目の事件と二回目の事件に関わっていたものたちとなるとかなりの人数になるが、鍋島の友人が瀬田の事件を追っていたこともあり、関係者の写真を集めることが出来た。


菅田と鍋島は美緒が自殺したとはやはり考えられなくて、美緒の命を狙う人物を考えていた。そこでたどり着いたのが瀬田だった。


瀬田の息子、昌紀が菅田たちを恨んだように、瀬田がホテル乗っ取りを企てる前に起こした事件の時も同じように昌紀は逆恨みをしたのではないかと思った。そして、その相手から昌紀と美緒が恨まれていたとしたら。


「この方とこちらの方は覚えがあります」


鍋島は写真を手に取って、裏面を確認する。写真の裏には氏名と年齢、事件との関係が簡潔に書かれていた。


「私もこの方は見覚えがあります。と、こちらも」


菅田は瀬田のホテル乗っ取り事件の裁判を数回、田辺に代わって社長の三上と一緒に傍聴したことがあった。その時、ここに並べられた写真の中の数人を見かけたことがあった。

見覚えのある写真の裏を確認していく。


「これは?」


テーブルの端に置かれた封筒と見た。


「この写真を集めてくれた人が関係あるかと思ったらしくて一緒に送ってくれました」


そう言うと中から数枚の写真が出て来た。


「鍋島さん」

「何を準備しましょうか」


鍋島は菅田の言いたいことが分かったようで次の準備を考えていた。


「舞台が必要です」

「やりますよ」


鍋島が笑顔で返す。


「とりあえず、三島を捕まえます」


菅田は重要人物だと告げると鍋島はそのうち嫌われますよと笑っていた。

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