第29話 美緒の死

菅田は田辺が見たという不審者が誰かと考えてみた。防犯カメラの映像ではじゅんこの方が早く本館に戻ってきていた。それだと広子が不審者なのか?

菅田はもう一度映像を見た。



慌てて地図を見る。そこには先日、あの当時いたものたちから聞いた話と三島に走らせたタイムが書き込まれている。

田辺が不審者を見たと思われる時間と純子や広子が映っている時間を見比べる。


不審者は純子でもなければ広子でもなかった。


田辺が不審者を見た時間の数秒後に純子は本館に居た。その一分後に広子も本館に来ていた。

チャペルから本館までどんなに走っても辿り着けない。

佐伯が言っていた一人とは限らないとはもっといたということか。

一体誰なんだ。

そしてどうやって田辺から逃げ切ることが出来たのか。その人物こそが美緒の怪我の原因を知っているはずだ。



○○○

鍋島から連絡が入った。


「菅田さん、大崎美緒が自殺しました」


珍しく焦った様子で話す鍋島。


「どうして?」


菅田は呆然とした。


大崎美緒は自宅で自殺していた。


「遺書があったそうです」


鍋島が菅田を訪ねてきた。


「自殺するとは思えないのですが」


菅田が正直な思いを伝える。


「私もそう思います。ですが、遺書には疲れたと書かれていたそうです。父親の事件のことなどが書かれていたそうです」

「瀬田のことが負担になっていたか」


父親が二度も大きな事件を起こしたのだから負担になるのは分かるが、本当に自殺だろうか。チャペルの怪我のこともはっきり分からないままだ。


「美緒たちがここにきた本当の目的も分からず、なんとなく関係者がいなくなってしまいましたね」


菅田はポツリと呟く。


「いなくなりましたね。こんなに綺麗にいなくなるなんておかしいと思いませんか」


鍋島が真剣な顔で言う。

そうだ、関わった者たちが亡くなった。こんなことが偶然で済まされるのだろうか。菅田はやはり、田辺が見たと言う不審者が気になった。


「鍋島さん」


鍋島は心得たように頷く。


「なにから調べましょうか」

「最初から」


菅田が言うと鍋島はどこかへ連絡を入れていた。

菅田はもう一度地図を見て、美緒たちがこのホテルに来た時からの行動を全て書き出していく。


鍋島が調べた情報も付け加えながら、美緒たちの動きを洗いざらい書き出していくと菅田たちの知らなかった美緒の行動が分かってきた。


美緒はホテルについた当日、菅田が襲われた海浜公園へ行くが、その時純子と広子に追わせるように行動していた。

昌紀と美緒が菅田を襲う時も最初から二人が撮影することを計算していたかのように動いていたと思うとそれ以外のことも全てが今までとは違う方向で見ることが出来る。


チャペルに行ったのも、純子や広子を引き付けるためを目的としたら、怪我をしたのは自分から落ちたのではないかと考えられる。

もし、純子や広子が逃げ遅れたら、それこそ二人に突き落とされたと言うことが出来る。そして、怪我をすることで昌紀と犯行の手伝いをすることもなくなった。

もっと言えば、二人が亡くなった後で、実は脅されていたと言えば証明するものはない。ただあるのはイベントで騒ぎを起こせと純子が言っていたものがあればそれを信じるかもしれないし、美緒の言葉に少なからず信憑性は増すだろう。


「美緒は兄、昌紀が菅田さんを襲った時、そばに居ただけです。それを純子たちに証明させるために後をつけさせたのでしょう。二人はあの映像で美緒を脅迫できると考えていたと思いますが、それを見越しての行動だったとしたら、二人はうまく利用されていますよね」


鍋島が感心している。


「堀内が美緒を脅迫してきた時も、昌紀に連絡をとっていますよね。美緒は兄さえも利用したのでしょうか」


菅田は堀内が昌紀に殺されたことは美緒の想定内ではないかとさえ思えてくる。


「全てが美緒を中心に動いていますよね」


怖いなと鍋島が呟くのが聞こえた。


「広子が自殺したのは美緒が釈放された後ですよね」


菅田は嫌な予感がした。


「美緒が広子を殺したかもしれないと?」


鍋島が難しい顔をする。

もし本当なら、美緒はどこまで関わっていたのか。まさかここで起きたこと全てに関わっていたとかないよな。

菅田は自分が襲われてから美緒が自殺するまでに起きたことを思い出していた。

怖いな。


「菅田さん、少なくとも純子は違うはずです。純子の死亡推定時間に美緒はこのホテル内にいたことが分かっていますから」


鍋島も同じことを考えていたようで早速否定してきた。


そうか。と一瞬納得しかけたが同じ時刻、広子もこのホテルにいたはずだ。

純子の死亡推定時刻が違っていたとか?

鍋島が電話をかけている。今度はなにを調べているのか。


「菅田さん、純子の死亡推定時刻に間違いがあったそうです。それと広子と美緒の死亡時間も確認しました」


どうやら吉村に確認したようだ。相変わらずの行動力だ。

菅田と鍋島が再度、純子の死んだとされる時間の防犯カメラの映像を見直した。

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