第13話 落とし物 後編

先日、本館のフロントで見かけた大崎美緒と能村広子。大崎美緒の爪がこの模様だった。


菅田は鍋島にその話をすると同じ爪か、と言って考え込んでしまった。

「そうか! 能村広子ではないですか?」

鍋島が思いついた言葉を言った。

「能村広子?」

「金ヅルですよ」

「堀内が金ヅルと言っていた人物は能村広子だと言うのですか?」

「あの付け爪は三人同じだったとして、チャペルのイベントで堀内さんは能村広子さんの爪を覚えていた。で、大崎美緒さんが落ちた時に付け爪を見つけて能村広子さんが突き落としたと思い脅迫したのか、しようとしたのか」


菅田はあの日、能村広子が付け爪をしていなかったことの説明はつくと思った。だが、確証はない菅田は宇佐美に連絡してすぐ来てもらう。

「すみません。聞きたいことがありまして」

菅田が招き入れ、ソファーに座ってもらう。

宇佐美は何を聞かれるのかと不安になっているように見える。当然だ。突然呼び出されたと思ったら、鍋島までいるのだから。

「大崎美緒さんたちがチャペルのイベントに出席した時、三人は付け爪をしていましたか?」

鍋島が聞く。

宇佐美は少し考えて、思い出したかのように言う。

「蝶のような模様の付け爪をお揃いでしていたわよ」

「それは、この付け爪ですか?」

鍋島は写真を見せた。

「そう、これ」

宇佐美の返事に菅田と鍋島は頷く。


「大崎美緒さんが落ちた時の付け爪はどうでしたか?」

今度は菅田が聞く。

「全部の爪にあったわ。病院で付け爪がって騒いでいたから確認したの」

怪我をして病院に運ばれたのに付け爪の心配をするのかと菅田は呆れる。

「大崎美緒さんのことを原口純子さんと能村広子さんに説明したのは、宇佐美さんですか?」

「違う。私は大崎美緒様に付き添って病院に行っていたから、その間に総支配人が話をしてくれたみたい。その後は総支配人に止められていたから会っていないわ」

宇佐美からは直後の様子は分からなかったが、鍋島がどこかに電話をしている。

菅田はその間に、宇佐美に堀内が行方不明になっていることを伝えた。


「いない?」

上司である宇佐美は驚いていた。

「金ヅルが出来たと言っていたらしい」

「もしかして、金ヅルって……」

「その証拠を探しています」

宇佐美が考え込んでいる。何かあるのか。菅田はその様子を眺めていた。


「分かりました。原口純子さんと能村広子さんの二人は付け爪を外していたそうです」

鍋島が電話を切って菅田と宇佐美に言った。

「どこに電話したのですか?」

菅田は一応聞いてみる。

「吉村さんです」

鍋島の行動力と言うか、恐れ知らずに感心する。


「決まりか」

菅田が言うと鍋島も同意する。

「原口純子さんは既に亡くなっていますから、能村広子さんが怪しいですね」

鍋島は状況が次々解ることが嬉しそうだ。


「能村広子さんはここ数日、ホテルから出ていないわよ」

宇佐美の一言で鍋島の表情が変わる。

「出ていない?」

「食事以外は部屋からも出ていない」

菅田と鍋島が宇佐美から詳しく話を聞くと、大崎と能村が泊まっている部屋の周辺には宿泊客やスタッフに扮した刑事たちが常に見張っているのだが、その刑事たちは別の出入り口はないかと宇佐美に聞いてきた。

どうやら、二人の内どちらかが抜け出した可能性を探していたが見つけられなかったようだ。


二人の内どちらかとはどういうことか気になったが、それよりも堀内のことが心配だ。

鍋島が話を続ける。

「仲間がいるって事ですか」

「能村広子に仲間……」

菅田と鍋島は情報が足りないと感じた。


「能村様と原口様は大崎様の本当の友人ではないと思う」

宇佐美の言葉に菅田と鍋島は反応する。

「本当の友人ではないとは?」

「なんとなく、そう思ったのだけど……。イベントでも仲良さそうに話はしていたけど、何処かわざとらしいと言うか、凄く気を使っているようだった」

「気を使っているか……」

鍋島が言うのを聞いて、菅田はある人物を思い出した。

「宇佐美さん、堀内は本館でどんな仕事に就いていましたか?」

「レストラン担当のはず」

「宇佐美さん、もう一つ質問です」

菅田は身を乗り出し宇佐美に聞く。

宇佐美は何が起こっているのか分からず不安な表情を見せた。


菅田は急いでパソコンを操作する。外に設置された防犯カメラの映像を出した。

鍋島も覗き込む。宇佐美はその後から見ている。


そこに映っていたのは暗がりの中、周囲を気にしながら遊歩道を歩く能村広子の姿があった。


「彼女が堀内君の金ヅル?」

恐る恐る聞く宇佐美に菅田は多分とだけ言う。

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