第9話 次の犠牲者 前編

菅田は仕事帰りに海浜公園に向かった。例の襲われた場所だ。

あの時と同じ場所に立つ。

少し離れたところから護衛に付いてくれている若い刑事が心配そうに菅田を見ていた。


ここで声を掛けられ振り返ると誰もいなかった。気のせいかと海を眺めていたら、頭に鈍い音がして痛みを感じた。

振り返るとまた殴られた。何度目かを左腕で庇い、腕の感覚がなくなり掛けた時、襲ってきた者達の動きが止まる。

菅田はその隙を見て逃げ出した。


側に外灯がある。かなり明るいが、あの日外灯は点いていなかった。

警察は細工されていたと言っていた。この近くの防犯カメラも壊されていた。顔を見られない為の計画だ。

かなり前から調べ上げ、準備して襲ったのだ。菅田と今西だけとは思えない。

誰がなんの目的で?


瀬田の事を嗅ぎ回っている人物は亡くなった原口純子に特徴が似ていた。

鍋島が今日、原口純子の生前の写真を送ってくれた。病院で聞いた人物とよく似ている。

原口純子は何をしようとしていたのか。友人だという能村広子、瀬田の娘の大崎美緒はその事を知っているのか?


菅田は護衛の刑事に帰る事を告げる。

自宅は危険なので、しばらく実家に泊まる事にした。


車に乗り、実家までのルートを選択する。ゆっくり動き出す。後は任せればいいので安心だ。

あの時と同じ景色を眺める。あの時は襲った二人が写っていたと思ったが、警察の調べで違うことが判る。今日のバックミラーに映るのは護衛の刑事たちが乗る車だ。


そういえば、あの二人が菅田を襲うのを止めたのは何故か?

実家がある街に着いた。刑事たちはこの街の入口で見張るようだ。

菅田はそのまま進み、幾つかの門をくぐり実家に辿り着く。


食事を終え着替えてから自室に行き又、メールのチェックをする。新しいものが何件か来ている。

今日きた中に動画が添付されていたのがあったのを思い出す。それを一つずつ再生する。

ドライブレコーダーの映像を集めたようだ。

菅田が襲われた日と今西が襲われた日、それぞれ現場となった場所の付近を走る映像だ。

この中に犯人の手掛かりがあるはずだ。

鍋島の行動力には感心する。これだけのものを集めるとは。


気がつくと日付は変わろうとしていた。菅田は慌てて片付け、ベッドに入る。

明日も仕事だ。チャペルのイベントが中止になった為、客が本館のイベントに流れて来て本館のスタッフは対応に追われていた。

今日見た、大崎美緒とのことは収まる様子はなかった。

顧問弁護士と田辺から説明を受けたが、菅田の感想は瀬田と同類だと言うことだ。傲慢で表面は取り繕っているが、内心では自分さえよければいいと考えるタイプのようだ。


復帰してすぐに菅田は大崎美緒の確認をした。一階のフロントの前にある土産物コーナーで見ていると大崎美緒は車椅子に乗って、それを能村広子に押させていた。

これから昼食に懐石料理の店を指定していた。大崎はフロントで予約の確認をしていた。

友人だと言っている能村広子を自分の下僕のように使っているのを見てしまった。


「確か来月、1組目の結婚式があったよな」

菅田は呟く。結婚式まで後、二週間。それまでに収まるか?

菅田は眠りについた。


早朝、何かの音で目が覚める。目覚ましかと思ったが、段々意識がはっきりしてくると電話だと気づいた。手探りでスマホを探り当て出る。

「もしもし」

少し掠れ声だ。

「菅田さん、田辺さんが襲われました」

電話は鍋島で、内容に一気に目が覚めた。

「何故?」

護衛がついていたのではないのか?

鍋島は田辺の様子は自分が見に行くので、菅田はホテルへ行くように言ってきた。

確かにそうだ。田辺がいない今、自分までもいないのは何かあったときによくない。

出社時間にはまだ早いが、菅田はホテルへ行く準備をして家を出た。


本館のフロントへ直接向かうと、菅田の部下、三島が走り寄って来た。

「総支配人が襲われました」

声を抑えて言う。

「聞いた。どこでだ?」

鍋島はホテル内としか言っていなかった。

「チャペルの庭です。昨日夕方、カフェの松本さんと一緒に行っていたのです。そこで人影が見えて、松本さんが追いかけて、総支配人が一人になった隙を狙われたようです。松本さんが戻って来た時には総支配人が倒れていたと」

「三島、お前夜勤じゃなかったよな」

菅田は三島が昨日の昼間もいたことを思い出す。

「佐伯さんに頼まれました。佐伯さんは総支配人について病院に行っています」

「もう、帰っていいぞ」

「ですが、副支配人、その手では……」

三島が躊躇していると背後から声がした。

「私が入るわ。副支配人はやることあるでしょう」

「宇佐美さん、いいですか?」

菅田が確認をする。

「いいわよ。チャペルのイベントもしばらくないから」

「助かります。あっ、でも表には出ないほうがいいと」

大崎美緒がまだ宿泊している。田辺の話だと宇佐美さんにもクレームを言っていたらしいからあまり顔を会わせられなかった。

「分かっている。裏方に徹するわ」

宇佐美さんは笑顔だった。最近、元気がなかったと聞いていたので少し安心する。

「お願いします。自分は執務室にいます」


菅田は執務室に行き、弁護士に連絡を取る。

田辺が襲われた理由はあそこしかない。

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