Picture Dive! 俺とリリスとアルマイン ~絵本の世界は見えないとこに、知らない話が隠れてる~

葵 詩安(E)

 ■ 第1部 リリスとカケル




 えーっと、何時の頃からだっけ。 


 うん、そう。 あれは幼稚園の時だった。



 俺とリリスは1冊の本を取り合ってけんかをしていた。


 どちらもその絵本がどうしても読みたくて、大声をあげて。

 

 その時、先生がやってきて言ったんだ。



 「カケルくんもリリスちゃんも、その本が読みたいのでしょう?


 喧嘩はしなくていいの。 こちらにいらっしゃい。」



 俺とリリスは渋々、先生の後ろを付いていった。



 部屋の隅のテーブルがあるところに先生は俺らを連れて行くと


 俺とリリスを並んで座らせた。 


 そして、おもむろに本を俺とリリスの真ん中に置いた。


 「二人とも読みたいんでしょ? ならお手々をつないで、一緒に読みなさい」


 独占欲の強い子供ではあったが、先生の言葉に何となく納得を感じた。


 俺もリリスも、この本を読みたいのは一緒だ。



 いったん喧嘩していたのをやめ握手。



 そして今度は俺は左手、リリスは右手をつなぎ...


 その本の表紙を、俺がまずは右手で開く。




 「うわぁ~」



 

 俺とリリスはその本の、見開き中央の泉と木々に囲まれたそのページを


 まずはいっしょに見たのだった。

 


 素晴らしく綺麗なそのページの絵に二人してしばし見惚れた。




 その時、リリスが左手で指さした。


 「あっ、ウサギさん!」



 確かに! 



 木々の後ろから、見えるか見えないかの位置に!


 こちらを見ているウサギが見える。



 「リリスちゃん、よく気が付いたね」



 先に面白いものを見つけられた。


 今度は俺が何かを探すぞと思いかけた時だった。




 「あれ...?」



 「ねえ、カケルくん、ウサギ...」




 リリスもほぼ同時に気が付いたようだった。




 木陰のウサギの口元が...



 小さく動いているのだ。




 いくら子供でも、この本が現実ではない事、本の上に書かれた


 「絵」である事は、別に言われなくてもうすうす判っている。



 そう。その判っているはずの、この目の前で、だ。



 木陰のウサギの口元が動いているのだ。



 「これってまさか――」



 そう言って木陰のウサギに俺の右手、リリスの左手が伸び、



 ほぼ同時に俺とリリスはウサギの絵に触れた。




 その時――――――――








 「えっ、あれ、ええっ?」









 風が、吹いている...?...!




 子供ながらに空気の質が違うことがわかる。




 「えええ、何ここぉ~」



 すぐ横に泣きそうなリリスが居た。


 

 俺も、リリスも訳が分からなかった。





 俺はリリスと手をつないだまま、森の中に立っていた。





 そこは、まぎれもなく――――――――





 俺とリリスがたった今まで見ていた、



  「あの」 



 森の絵の中の世界だった。




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