Tender fleur─聖女になる気はありません─

楼星

Prolog

「ねぇ、リリィー。もしもだよ。もしも…生まれ変わる事が出来たら君は何をする?」

「アイン様。わたしは……」


 空の偉大な青さと寂しげで虚ろな湖が一体になったその場所に2つの人影が抱きしめながら佇んでいた。

 優しげなテノール声を放つアインと儚くも優しいメゾソプラノのようなジンとした声を持つリリィー。

 2人の声だけがこの場所を照らしている。何者にも邪魔をされる事が出来ない、2人だけの空間がそこに成り立っていた。


 2人を一言で言い表すなら、決して結ばれる事のない光と闇の存在。


 魔王であるアイン。

 聖女であるリリィー。


 それは紛れもない事実で世界は誰も2人を認めなかった。


「わたしはアイン様と生まれ変わってもなお一緒に居たいです」

「リリィー。私も君と一緒に居たい。けど、君はもっと別のものを望んでいるのでは?」


 全てを見透かすアインのその瞳で見詰められれば、認めるしかない。リリィーは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。


「やっぱり分かっちゃうんですか?」

「そりゃあ分かるよ。愛おしい人の事だからさ」

「─ッ」


 サラッというその一言に顔が真っ赤になるのが分かる。


「教えて。君の本当の想いを」

「……アイン様と一緒に居たいってのは本当ですよ?でも、わたしはあの子達を幸せには出来ませんでした。其れが1番の心残りです」

「其れは私も同じだ」

「子ども1人を救えなくて何が聖女なんですかね…飢餓から子ども達を救えませんでした。知識が足りませんでした。……悔やんでも悔やみきれません」

「じゃあ、もし生まれ変わる事が出来たなら、知識をちゃんと付け子ども達をも救って、そして私と一緒にいてくれるかい?」


 泣きそうな優しげななんとも言えない瞳で、リリィーを見つめるアイン。 リリィーの想いはアインには伝わっていた。それだけで、胸の何処かにあるつっかえが取り除かれた。


「勿論ですアイン様。これからも、この先も貴方だけをお慕い申し上げます」


 満面の笑みを浮かべたアインはそっとリリィーに唇を落とす。優しくふれるだけのキス。其れが何かのアイズだとでもいうように2人の姿が消えていく。


「私も愛してるよリリィー」


 アインが放ったその言葉は誰にも聞かれることなく消えていった。



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