第1章 青木剛視点
第1話 植木鉢
━━━━━━━━━━━━━━━
9月10日 月曜日
━━━━━━━━━━━━━━━
俺は割と通勤時間ギリギリまで寝ている。
朝に弱いので早めに目覚まし時計をセットしても結局スヌーズ機能を使って二度寝三度寝してしまうのだ。
俺はようやく体を起こすと、歯を磨き、顔を洗い、牛乳と野菜ジュースをがぶ飲みする。
時間が無い時の朝食がわりみたいな物だ。
まあ、朝食と言っても今週は遅番だから時間的には昼食と夕食の間くらいだけど。
時計を見る。
3時45分。
時間的にはまだ歩いて間に合う時間だ。
俺は玄関を開けてドアを閉める。
ドアには”青木剛”と言う表札の文字。
もちろん俺の名前だ。
ふと俺は3日前の出来事を思い出した。
変な訪問営業の男だった。
あいつの名前は知らないがあいつはこの表札を見て俺の名を知ってるんだっけ。
まあ警察から厳重注意されたらしいし、もう二度とこの部屋に訪れる事もないだろう。
何の気も無しに廊下から下の歩道を見る。
歩道には俺の勤める自動車工場の指定作業着姿で歩いている男性が見えた。
わざわざ会社で着替えるのが面倒くさいので作業着のまま通勤しているらしい。
合理的な方法だが俺にはみっともないのでマネできない。
その男性は俺のマンションの同じ階、504号室に住んでいる男だ。
早番遅番シフトが同じらしく、出社時や帰宅時にたまにマンションで鉢合わせするので挨拶くらいはするが、同じ工場とは言え、働いてるラインも違うし特段近所付き合いは無かった。
ちなみに俺は501号室。
501号室は5階の端の階段にあり、504号室は一番階段から離れた5階の端の部屋だ。
502号室、503号室は空室になっている。
俺はエレベーターで1階へ降り、歩いて工場へ向かう。
本当は自転車を使って出勤したいが、俺の勤める自動車製造会社は自社社員の交通違反や事故などがあると世間に批判されるので、基本的に歩いて行ける距離に住んでいる従業員は徒歩で出勤する事になっていた。
工場まで徒歩20分。
のんびり歩いていると不意に頭上から植木鉢が降ってきて、俺の5メートルほど前に落ちた。
植木鉢は物凄い音をあげて割れる。
何だよ危ねーな。
俺は歩道から植木鉢が落ちてきた方向を見上げる。
6階建ての古そうなマンションだ。
上の階の住人の部屋から風か何かで外にあった植木鉢が自然落下したのだろうか?
確認しようかとも思ったが、会社に行かないと遅刻してしまうので構わず俺は仕事場に向かおうとした。
・・・。
ふと何か違和感を感じてもう一度マンションを見る。
何の変哲もないマンションだ。
俺は釈然としなかったが、これ以上考えても仕方ないと思い、工場へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます