第2章

新たなハンター

 6月10日、グラーフが新たなハンターとして認知された頃には、さまざまなフィギュアが転売業者の手に落ちていた。その理由は色々とあるかもしれないが、大半が自分が莫大な利益を得ようと言う勢力であるのは間違いない。

 その中でピックアップされ、グラーフ及び島風(しまかぜ)あいかが狙っているのが――超有名アイドルのCDを購入する資金源とするファンの名を借りたアイドル投資家だった。

【転売屋が逮捕されるというニュースは聞かない。オークションサイトでは、悪質なチケット転売屋が摘発されているが――】

【それは転売屋が逮捕されているのではなく、フィギュアハンターにハントされていると言ってもいい】

【フィギュアハンターって、数年前の話じゃなかったのか?】

【確かに。異能力を持ったハンターは数年前の大量摘発後には姿を見せていない】

【では、今のハンターは?】

 つぶやきサイトでは最近出現するフィギュアハンターに関して疑問を抱く声があった。異能力ではない――疑似異能力とも言えるような物。それをハンターが有している理由、それを誰も語る事はなかった。実際、フィギュアハンターに関しては数年前のアイドル投資家や転売業者の摘発後、姿を見せていない。それを踏まえると、彼らは伝説のハンターにでもなったつもりなのだろうか?



 6月11日、谷塚駅近くにオープンした量販店、そこでは開店記念のオープニングセールが行われようとしていた。その情報を聞き付けた客がオープン前に行列を作る展開になると思われたが、店の前には行列NGである事を示す告知の電子掲示板が置かれている。

「転売屋対策とは違うか?」

「そっちじゃない。転売屋であれば、規制がかけられているはずだ。ここで言う対策は――」

 並ぼうと考えていた客も、一端は店を離れてコンビニや牛丼店等で時間を潰す事にする。開店時間は午前10時なので、あと30分か?

「なるほど。店側までフィギュアハンター対策をするのか。あくまでも、ハンターは協会から公認を受けた人間に限られると言うのに」

 迷彩コートを着て店の様子を遠目から見ていたのは、雪風真姫(ゆきかぜ・まき)である。彼女もフィギュアハンターの一人だが、あまり積極的に動く気配はない。

「どちらにしても、この場所がシャドウに目を付けられている可能性は非常に高い」

 雪風の右手にはペットボトルのお茶、左手にはおかかのおにぎりが握られている。どうやら、雪風はだいぶ前から現地入りしていたようだ。


 午前10時、オープンと同時にパニックになると思われたが、平日と言う事もあって店内に入る客は大規模ではない。あえてオープンを土日にしなかったのには、こうした理由もあるようだ。これ以外にもフィギュアハンターに狙われるのを恐れたというのもあるだろう。

「フィギュアハンターは店内では戦わない。別のライトノベルでは店内でバトルするような作品もあったが」

「それこそ、バラエティー番組の企画と歌われるだろう。このご時世ではバラエティー番組は、炎上勢力などが理由で次々と打ち切りを決めている」

「最近では、スポーツ番組、ニュース番組、アニメ・特撮以外は超有名アイドルのCMと言われる位にテレビは変わった」

「バラエティーと言っても、超有名アイドルがメインで、他の芸人はかませ犬にされている位だ」

「それこそ、スポンサーの指示でやらせ番組をやっているのと同じだ」

「超有名アイドルの宣伝番組と言うより、超有名アイドルのCM枠と割り切るのは――そう言う事か」

 客が話すような声もあるのだが、そうした話題はスルーしてお目当てのフィギュアやセール品を購入しようと言う客が多い傾向にある。余計な話題に触れて、わくわく感がそがれるのを防ぐという意味合いがあるのだろうか?



 午前10時15分、店内でフィギュアを購入しようとした客の一人が店員に呼び止められていた。

「お客様、その商品は1人1個の限定品です。複数購入は――」

 どうやら、怪しい客を発見し、その人物を呼び止めたようだ。明らかに複数個を購入している様子だったので、呼び止められるのは当たり前だが。彼が取った行動は、1人1個の限定品をレジで購入、その後に別の協力者に外で待ってもらい、その人物に限定品を渡す。その後に、再び限定品を持ってレジを――という繰り返しを行う。

 協力者に並ばせる方法に関しては、以前にフィギュアハンターの一件があった際に問題視されて禁止されている店が多い。その為、外で待機してもらう方法をとっていたらしい。

「こっちも超有名アイドルのCDリリースが迫っている以上、CDを購入する資金を――」

 限定品を購入しようと考えた人物は、迂闊にもフラグ発言をしてしまった。超有名アイドルの単語を出す事は、フィギュアハンターに狙って欲しいと言っているのと同じである。

「その話を聞いた以上――こちらも見逃す訳にはいかない」

 男性客の背後に現れたのは、私服姿のグラーフだった。今回は特に購入する物はなかったのだが、セール品の品ぞろえを確認する為に店へ訪れていたのだ。



 午前10時20分、谷塚駅近辺にある高架下の公園、そこにはフィギュアを手にしていた男性客と白いフルアーマーを装備したグラーフの姿があった。

「貴様が噂のグラーフ・ツェッペリンか――」

 男性客の方は、突如としてグラーフから距離を取り始めた。どうやら、武器の射程的な問題があるらしい。しかも、距離をとる為に走り出すと同時にスタングレネードを投げ、それが発行したと同時に姿をくらましたのだのである。

 グラーフの方はバイザーのモニターに異常はなかったものの、爆音の影響でバイザーのスピーカーがハウリングを起こし、足止めをされていた。30秒ほど男性客は場所を探し、グラーフから100メートルは離れた位置に座り込み、おもむろにスナイパーライフルを構える。

「まさか、PSG1だと言うのか――。しかし、その程度の武器では――」

 グラーフは自分に対して飛んできたライフル弾を背中の飛行甲板型のシールドで防ぐ。どうやら、戦闘機を飛ばすだけではなく防御にも飛行甲板は使えるようだ。その後、戦闘機を飛ばして反撃を行う。当然、相手は射程外と思ってその場を動かなかったのだが――。

「馬鹿な! あの距離でも届くのか!?」

 更に距離を離れようとした男性客は、既に手遅れと言う状態だった。戦闘機の攻撃を受け、その場に気絶する。フィギュアに関しては、その後に店へ返されたようだ。

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