第53話 御代→優理
吉田vsミシロのゲームが決着し、第1ピリオドが終了。
ホールからプレーヤーが退出してしばらくすると、ディーラーのアナウンスが部屋に流れた。
『第一ピリオドの7ゲームが終了いたしました。プレーヤーの皆様、お疲れ様です。
さて、これからは20分のインターバルとなります。各階を隔てていたシャッターは開かれ、エレベーターも20分の間は使用可能。
必要であれば自由に移動をしていただいてかまいません。
もちろん身体を休めるも良し。時間を有効に活用なさってください』
それだけの話がなされると、モニターに建物の見取り図と残りの休憩時間が示された。
プレーヤーの個室は各フロアにひとつずつ。エレベーターか階段を使用すればどの個室へも移動ができるようになっている。
桂木のいる個室は5階。
どうやら個室の階層は指名の順がそのまま反映されているようだった。
「さて、ここから速さ勝負だ。善は急げ」
桂木はプレーヤーの位置を把握するとすぐに部屋を飛び出した。
もちろん暇つぶしのためではない。戦略を手土産に、仲間を集める旅へと出かけたのだ。
彼が最初に訪問をしたのは御代の部屋だった。
ノックとともに外から声をかけると、彼女は警戒の様子もなく桂木を招き入れた。
そして2人とも腰を掛けると、前置きもなしに本題へ入る。
「御代。いまから手分けして、仲間を集めに行くぞ」
「—仲間、ですか?」
御代の問いに、桂木はその意図を端的に説明した。
このゲームでは仲間を作ることが肝要である。なぜなら2人で口裏を合わせれば、お互い5ポイントを確実に減らすことができるからだ。
ここまでは第一ピリオドの説明でしたのと同じだ。御代もこくこくと頷いて聞いている。
「だがこのゲームは2人で仲間を作るだけじゃ足りない。できればあと2人の仲間が欲しいんだ。
合計4人。これだけの数を目標にしたい」
2人で組めば5ポイントを減らせる。だがそれと同じ作戦を
これでは差がつけられない。
だったらどうすればいいか。答えは簡単だ。
「自分らがやるゲームだけじゃなくて、“賭け”の結果も出来レースにしてしまえばいい」
桂木の言いたいことは、つまりこうだった。
まず4人でチームを作る。
そしてメンバーの間で、誰が、どのゲームで勝つか。すべて決めてしまうのだ。
そうすれば直接対決はもちろん、賭けの結果まで完璧に制することが出来る。
仲間のうち、あらかじめ勝つと決めていたほうに賭ければ良いだけになるからだ。
これまで運任せだった賭けの的中率が、100%に増すのはかなり大きい。
ポイントを減らす機会が大幅に増えるということだ。
ここまでがチームを作ることの意義。
加えて4人という人数にもちゃんと意味がある。
ゲームに参加しているのは7人。
つまり先に4人のチームさえ作ってしまえば、他のプレーヤーが同じ作戦をやろうとしても、最大で3人しか集められないのだ。
このゲームは最終的にゲーム終了時の成績1~3位が40枚のチップを得られ、5~7位がチップを失うと最初に説明があった。
上位3人のチップで120枚。4人で分けても30枚の獲得になる。
よって勝つのは先に4人のチームを作った者。
負けるのはそのチームに入れなかった者。
これはそういうゲームなのだ。
「—個人で戦っても絶対に減らせるはずのない、25ポイントを減らすというゴール設定。にも関わらずつけられた“零ゲーム”というゲーム名。
そして7人というプレーヤーの数。
このゲームを考えたヤツは、初めからこの形を想定していたんだろうな。
説明は以上だ。なにか質問はあるか」
「はい。大丈夫です」
御代は短く、肯定の返事だけを返した。
ここから先はスピード勝負になる。彼女にもそれがわかっていたからだろう。
「仲間にするのは、辻さんと吉田さんですよね?」
「それなんだが、御代には……」
「私は吉田さんをあたります。先輩は、辻さんを」
桂木の言葉を遮るように、御代は胸を叩いた。
そんな仕草を見て、桂木は彼女に自分の胸のうちを見透かされたような気がした。
三回戦、トラップルーム。桂木と吉田は共に勝利こそしたものの、ゲームの最中に不和を残すような瞬間があった。
おまけに吉田は
そんな吉田との交渉を自分が買って出ることで、少しでも桂木の負担が減れば、と。
御代はそう考えたのだった。
「じゃあ早速行きますよ、吉田さんのとこに!」
「ありがとう。それと、こんな時に言うことじゃないのかもしれないが……
これからは、
部屋を出て行こうとする、御代の動きが止まった。
「え? え、え、え、え。
え?」
ギギギ、と音が鳴るんじゃないかというくらい硬い動きで桂木を振り返る御代。
そんな御代に桂木は「だって紛らわしいだろう」と人差し指を立てた。
「“御代”と“ミシロ”。ディーラーのコールのたびに同じ名前が呼ばれるからどっちがどっちかわからん。
お前の方のプレーヤーネームは、ひとまず“優理“って呼ぶことにしてもらおうぜ」
その言葉を聞いて、一旦、御代はきょとんとした顔になった。
それからみるみる顔が赤く染まり、「あ、え、あ……」みたいなことを言って、眉毛を吊り上げて叫んだ!
「ま、ま、紛らわしいのは先輩の方です!
急にそんなこと言って、そんなの期待しちゃうじゃないですか! 乙女の純情をなんだと思ってるんですかぁ……」
本気で泣きそうになる御代。さすがに「しまった」と思い、桂木はすかさず頭をフル回転させた。
その結果。
「まあ、その、なんだ。
俺もこれからは、
「え?」
「吉田の方の交渉は頼んだぞ。優理」
「え、あ、そ……。
それなら許しちゃいます。
い、いいい行ってきますっ!」
パタパタと走っていく御代。その背中をホッとしながら見送る桂木。
「……。なんか勢いで名前で呼ぶことになってしまった……」
桂木は頬にふれながら、手のひらが熱くなるのを感じた。
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