第106話 『君たちはどう生きるか』のコトなど

『君たちはどう生きるか』


長編アニメーション『風立ちぬ』を世に送り出して引退を表明した宮崎駿さん。

ところが、結局再度長編アニメを作ってしまった。

評価も高くアカデミー賞ではアカデミー長編アニメ賞を受賞してしまった。

日本映画がアカデミー長編アニメ賞を受賞するのは21年ぶり。

その21年前の作品は『千と千尋の神隠し』だったりする。

今更ではあるが、ようやっと観賞したので、それに関して今回は少しだけ語りたい。


とは言うモノの。

通常、この『くろねこ教授のタワゴト』では。

ネタバレ上等!

とゆースタンスで感想を書いている。

だけど、今回はそうもいかない。

『君たちはどう生きるか』は映画の内容をほとんど秘密にしていて、宣伝でも何も明かされていない作品。

チラチラとネットの反応を眺めても、内容に関しては触れないよう、皆さん気を付けて書いていらっしゃる。


のでボカして言うと。

くろねこ教授的には前半が面白かった。

小栗虫太郎とか江戸川乱歩ちっくな和風幻想の世界。

少し恐怖テイスト。

後半はいつものアニメとゆーか、お子様向け冒険ファンタジーのテイストが強い。

映画に関して良く分からない、とか、筋が通ってない、とゆー感想が多い。

それは前半と後半のバランスが悪い事が最大の原因と思える。


プロットが成立していないとゆー意見もあるが。

それは受け止め方次第だと思う。

一応主役が夏子さんに対し、序盤嫌悪感を露わにしていたのに、それを受け入れている。

成立はしていると思う。

ただ……ヒロインの正体もう少し分からなくしろよ、とか。

弟と仲良くするシーン描けよ、とかは思うが。

言い出したらキリがない。


おそらく序盤の向こう側に行きそうで行かない部分をはしょって。

向こう側の様子や、インコ帝国の事など、もっと描写すれば。

冒険ファンタジーとして完成した。

千と千尋の男性主役版である。

だけど、現実世界にもっと描きたい何かがあったのだろう。


驚いたのは映画の序盤、一人称的なモノローグがあった事だ。

今まで宮崎駿監督は一人称的モノローグを使った事は無い…………と思う。

この映画に私小説的雰囲気が感じられるのはそのためだ。

そして主役の少年の葛藤。

少年が悩むのも珍しい。

今まで、アシタカにしろ、未来少年コナンにしろ、主役の男性は一途で迷わないキャラであった。

宮崎監督の理想の少年は迷わない、迷わせたくないのだと思う。

その代わりに少女が思い悩んできた。

千尋でキキでソフィーだ。

だから監督はいままでやってこなかった少年の葛藤に挑戦したのだと思う。


ちなみに日本では賛否両論と言った雰囲気だが海外の評価は高い。

うーん、アレじゃないかな。

海外映画フィルター。

こういう現象を差す言葉があるのかは知らないが。

我々も洋画を見る時、フィルターをかけている様に思う。

海外の作品なので、肌感がズレてもしかたない。

風習や生活感が変でも、それは海外で日本と風習や感覚が違うから。

映画が変なのでは無い。

そんなフィルターをかけて洋画を鑑賞している。

欧米の人も日本アニメを観る時、そんなフィルターをかけて観ている様に感じられる。

その結果として、アリ、なんじゃないだろうか。


くろねこ教授としては前半の雰囲気の方が好きだ。

あのテイストを貫いてくれれば、ジブリ映画として、宮崎監督作品として、和風幻想モノと言う初のジャンルが出来たのではないかと夢想してしまう。


内容に関してはこんなカンジかな。


そして映像。

どうやら今回CGの使用を抑えてほぼ手描きアニメで製作したらしい。

クライマックスの鳥の群れは圧巻である。


そして作画監督は本田雄である。

本田雄さんを良く知らない人のために書くと。

『エヴァンゲリオン』テレビシリーズで核となった作画の人である。

アニメ誌に少し色っぽい綾波レイが載っていたら、それは全て『本田雄が描いた』みたいなー。

今敏監督の『千年女優』などでも作画監督を務める。

巧さと外連味、女の子がキレイ、とアニメ作画に必要なスキル、全部盛りみたいな方である。


『エヴァンゲリオン』劇場版でずっと作画監督として入っていた。

ところがラストの『シン・エヴァ』だけ参加していない。

自分も『タワゴト』の5話で少し書いているが。

ジブリに拉致された。

とゆーウワサは流れていた。

それが真実だったワケである。

まぁ庵野監督もタイヘンだったと思う。

本田雄自身も『エヴァ』の最後には参加したかったはずだが。

宮崎監督に頼まれたらしい。

「自分はもう75歳、最後の作品になるかもしれない。

 こっちをやってくれ」

と言われた。

宮崎駿にこう言われて断れる人間はいないですよ。

と本田雄さんは言っている。

そりゃそうだね。


本田さんの画がけっこう出たためか、今回人間の画がシャープだ。

主役の頬の線など、今までのふっくらしたジブリテイストではない。

ヒロインも今風アニメの美少女に少し寄って見える。

一回の観賞で全て分かるものでもないが、人間の芝居も少し違うように思う。

動作にマンガ映画タッチが入っていない。

動き出しに逆に振ったりして大げさに見せる技法の事ね。

外連味の少ない人の芝居。

宮崎監督がすべてのシーンまで手を入れる体力が無かったせいなのか。

映画の雰囲気を考えて、本田雄さんに任せたのか。

まだ情報が少なくて分からない。


そういえば、今敏監督の作品にも多数、本田雄さんは参加している。

前半のサスペンスタッチは…………今敏テイストの気もするな。


『君たちはどう生きるか』に関してはこんなところだが。

宮崎駿監督に関してはもう少し書こうかな。

次の機会がいつになるか、分らない。


そんな訳で次回も宮崎駿監督に関して少し語りたい。

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