第33話 『ユリゴコロ』と『彼女がその名を知らない鳥たち』

どーも。

くろねこ教授です。


今回のお題は沼田まほかるさん。

イヤミスの女王と呼ばれたりもする作家さん。


映画『ユリゴコロ』をやっと見たのです。

2017年の邦画。

主演:吉高由里子、松坂桃李、松山ケンイチ。


まあまあかな。

上手く登場人物を端折って、話の筋を分かり易く観客に伝えている。

なんかちょっと昭和の日活ロマンポルノみたいなカンジもあるけど。

リストカットのシーンなど、残酷プラス美しい映像にしようと頑張ってる感。

吉高由里子の冷たい表情だと美女、笑うと子供っぽくなるのもいい感じにハマってる。

松坂桃李の傍観者的主役もまぁまぁ、いや中途半端にハンサムすぎるかな。

松山ケンイチはカッコ良かった。

あまりカッコイイと思った事無い俳優さん、味が有る系の人だと思ってたのだけど。役によってはカッコ良くなるんだと認識しました。


原作小説の方は2011年発売。

大藪春彦賞受賞、本屋大賞ノミネート、「このミス」でもランクインのヒット作。

僕という一人称で語られる物語。

行方不明になる婚約者・知絵。職場の年上女性・細谷さんは何故か主役に不思議なくらい献身的に協力してくれる。父親の病と父の押し入れから見つけた謎の手記『ユリゴコロ』。手記の内容と現在とで物語は進んでいく。

手記の中の私は『ユリゴコロ』のせいか、殺人衝動に突き動かされる。


イヤミスの女王と呼ばれた作者の作品だけにショッキングなシーンも多い小説。


やはり小説と映画だとかなり違う雰囲気。

物語自体、単純化するため僕の弟を端折ったり母親の妹の存在を無くしたり色々してるのでトーゼンと言えばトーゼンなんだけど。

やっぱり女性作家と、男性映画監督の違いも大きい気がする。

小説も血まみれ、流血の大惨事、死人も多数出るのですが。

死、そのものに憧れる描き方。

映画は暴力に憧れてる描き方。

のような印象を受けるのです。


そこから血と暴力の作品のように思わせて、親子愛の作品だったのかと観客が気付くエンドは同じなんだけどね。



くろねこ教授は同じ沼田まほかるさんでも『彼女がその名を知らない鳥たち』の方が好き。

代表作、知名度の高さで言えば断然『ユリゴコロ』の方。

読んだ事無い人が試しに読んでみるなら確かに『ユリゴコロ』がオススメだろうな。

でもくろねこ教授がインパクト受けたのは圧倒的に『彼女がその名を知らない鳥たち』。


『彼女がその名を知らない鳥たち』

2006年発売の小説。

北原十和子は佐野陣治と同棲をしていた。陣治の稼いできた金で暮らしながら男に不満を抱き続ける十和子。彼女は刑事の訪問を受け、かつての恋人黒崎俊一が失踪していたと聞く。陣治の仕業ではないかと恐れと疑いを抱く十和子。彼女は知り合った男性、水島と関係を深めていく。


これも映画化されてます。

2017年公開。

ヒロインに蒼井優。陣治:阿部サダヲ、水島:松坂桃李、黒崎:竹野内豊。

こちらの方が原作小説に忠実かな。

もちろん多少のアレンジはあるけど。

竹野内豊のヤクザっぷりがコワイ。

松坂桃李の薄っぺらさも良い味。

蒼井優のイヤな女っぷりも。

阿部サダヲはナイスというか、他の人じゃなかなか成立しなかっただろうな。


この小説はそんなに話題作では無かったと思うのだけど。

でも映画関係者が読んだならこちらを映画にしてみたいと思うだろうな。

とくろねこ教授は勝手に想像しています。


映画公開もほぼ近い時期にされていて2017年9月に『ユリゴコロ』、10月に『彼女がその名を知らない鳥たち』。

こんな場合、普通なら出版社サイドはわーっと盛り上げて沼田まほかるフェアを双葉社、幻冬舎協力して行うモノなんだけどあまりしてなかった。どちらも単独で宣伝のみ。

映画の宣伝は『ユリゴコロ』の方が力入っていた風かな。

でもフタを開けたら『彼女がその名を知らない鳥たち』の方が評価高かった模様。

蒼井優は最優秀女優賞を幾つも取って、監督も阿部サダヲも受賞している。


『彼女がその名を知らない鳥たち』。

この小説はすごいと思うのです。

行き止まりのようなラストでありながら救われる。

正統派ミステリーではもちろん無いのだけど、驚かされる。

こんな見方が現れるのかと。


ミステリーの面白さって何かと言う問には人によって幾つもの答えが有ると思っていて。

くろねこ教授にとっては。

こう言う物語だと思っていた、ところがそれがひっくり返って別の物語が現れてしまう。

これが醍醐味だと思うのです。

そういう意味では正に奇麗なミステリーだと思う。

どぶ泥のような物語の中からいきなり現れる物語、捧げ尽くす至高の純愛のような何か。


ゲボゲボ咳する陣治、どぜうの陣治、キンタマの小さい陣治、たった一人の十和子の恋人。


この文章で小説は終わる。

初めて読んだ時、丸一日はこの語句が頭から離れなかった。

これは女性作家にしか書けないなと思う。

この文字の並びも、ラストシーンも話の焦点を何処に据えるかも。

男には、くろねこ教授には出来ないなと思ってしまう。


さて沼田まほかるさんはこの後、活動を止めてしまう。

デビューが2005年、2011年の『ユリゴコロ』まで年に一作くらいのペースで発表し続けていたものがいきなり中断。

なんの発表も声明もなくその後、新作は発表されていない。

元々遅咲きのデビュー、50台で作家活動スタート。

予想以上に成功したので未練が無くなったのか。

理由は分からないけれど。

『ユリゴコロ』がその集大成、最後の絶筆という気はしないんだよな。

何かしら、まだ書きたい想いは持っていそうな、そんな印象を受けるのだけど。

でももう10年新作発表してないので、もう無いのかな。


と言う事でまとめとしては。

試しに読んでみようかなという方には『ユリゴコロ』。

俺はいろいろ小説読んでるんじゃ、濃いのが読みたいんじゃというツワモノには『彼女がその名を知らない鳥たち』。

それぞれオススメしますと言うコトで。


ではでは。

くろねこ教授でした。

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