397話 年増

 ミルキーへのアプローチを続けている。

 彼女は自分のことを『ガサツで乱暴な女』と評しているが、そんなことはない。

 ……とも言い切れないのだが、それを補って余りある魅力が彼女にはある。


「俺の女になれ、ミルキー。『悠久の風』の一員として、幸せな未来を約束しよう」


「…………」


 ミルキーは黙り込んでしまった。

 かなり悩んでいる様子だ。


「まだ、迷っているのか?」


「…………」


 ミルキーは答えない。

 ただ、じっと床を見つめている。

 そしてようやく、口を開いた。


「だ、だけどよ……。アタシは年増のオバサンなんだぞ……」


「……」


 ミルキーの告白に、俺は言葉を失った。

 年増?

 そうだっけ?


 彼女の外見年齢は、ミナよりも幼い。

 ドワーフ族であることを差し引いても、14歳前後にしか見えないが……。


「アタシはもう20歳を過ぎてるんだ。それなのに、ミナの方が鍛冶の腕は上だしよ……」


「昼にも言ったが、ミナが『聖鍛冶師』に転職できたのは、俺といっしょに冒険者活動をしたからだぞ」


 俺はそうフォローする。

 この外見で20歳を超えているとは衝撃的だが、今は置いておこう。


「いいや、以前からの話なんだ。ドワーフの村でも、ミナの方が評価が上だった」


「へぇ……」


 ミナやミルキーの故郷の村か。

 一度は行ってみたいかもしれない。


「だからこそ、このエルカの町にミナは自分用の工房を構えていたんだ。ミナが店を離れるって聞いて、ようやくアタシが代わりに店を持つことができた。アタシの才能は、ミナに劣る。それに、これまでに色恋沙汰の経験もない。そんなアタシがあんたの恋人になったって、迷惑をかけるだけだ」


「ミルキー……。君は勘違いしているようだな」


「えっ?」


「俺だって男だから、恋人には夢を見るさ。ただ、それは見た目じゃない。才能でもない。大切なのは人柄だ」


「人柄……?」


「ああ。ミルキーは誠実で優しい女性だ。そのことはすでに知っている」


「そ、そうか? 自分ではよくわかんねぇけどな」


「それに、ミルキーは可愛らしいじゃないか。その可愛らしさは、年齢とは無関係だと思う」


「か、かわっ!?」


「ミルキーは自分の容姿について自信がないような発言をしているが、俺はミルキーのことを可愛いと思っているし、魅力的だと思っている。そのことはわかってほしい」


「うぅ……。あ、ありがとよ……。なんか照れくせえな……。こんなこと言われたのは初めてだよ」


 ミルキーは顔を真っ赤にして俯いた。

 よしよし。

 好感触である。

 いよいよ大詰めだな。

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