392話 俺たちも鍛冶を手伝うってのはどうだ?

 ミナとミルキーに武具の納期短縮を依頼中だ。


「コウタ坊にできることか……」


「うーん、なのです」


 ミナとミルキーは、腕を組んで悩み始める。

 やはりそう簡単には思いつかないようだ。


「あっ!」


「おっ?」


「思いついたのです!」


「本当か? どんなことだ?」


「コウタくんが、毎晩ボクを可愛がってくれればいいのです!」


 ミナが笑顔でとんでもないことを言い出す。


「そ、それが納期短縮に繋がるのか?」


「はいなのです! コウタくんを独り占めできるのなら、毎日の長時間労働なんて余裕で耐えられるのです」


 ミナは笑顔でそう言った。

 俺もミナを可愛がることは好きだ。

 彼女の気持ちが上向きになるのなら、それもありだろう。


(だが、根本的な解決になっていないような……)


 結局は労働時間でゴリ押しじゃないか。

 しかも、『俺が可愛がる』という主に精神的な報酬だし。

 ブラック企業における『当社の仕事にはやりがいがあり、人に感謝されます』みたいな文言と全く同じだ。


「うーん。それはちょっとなぁ……」


「えっ……。コウタくんは、ボクのことが嫌いになったのです? あんなに愛してくれたのに……」


「いやいや、ミナのことはもちろん大好きだぞ。だが、それとこれとは話が別だろ? 俺からミナへの愛は、決して労働の対価なんかじゃないんだ。それに……」


 俺はチラリと横に視線を向ける。


「ご主人様を独り占めだなんて、ひどいですよ! ミナさん!」


「そうだね。気持ちは僕も同じだけど、いつも我慢してるんだ」


「へへっ。抜け駆けはよくねぇぜ、ミナっち」


 シルヴィ、ユヅキ、リンが抗議の声を上げる。

 彼女たちも俺のことを好いている。

 俺を独占したいと思ってくれているのだ。


「ううっ。ボクはそんなつもりじゃ……」


 ミナが少し涙目になる。


「……さすがに1か月は欲張りすぎだと思うな……」


「その通りですわ。鍛冶の大変さはよく存じませんが……。ここは何か別の手立てを考えるべきでしょう」


 ティータとローズがそう指摘する。


「それならよ。俺たちも鍛冶を手伝うってのはどうだ?」


「……えっと。あたしもできることがあるなら手伝いますけど」


 グレイスとエメラダが名乗りを上げた。


「ふむ。確かにその手があるな」


「コウタ坊? けどよ、人手があっても素人に鍛冶ができるじゃねぇだろ? 本当に、簡単な手伝いくらいだ。それだと、せいぜい数日程度前倒しできるかどうかだと思うよ」


 ミルキーが疑問を呈する。

 彼女の考えはもっともだが、俺たち『悠久の風』に限っては問題ない。

 説明することにしよう。

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