367話 用済み

 ウルゴ陛下は俺に男爵位を授けると、去っていった。

 お抱えの転移魔法使いとともに王都へと戻るのだろう。


「ふう……」


 俺は小さく息を吐く。

 陛下と話すのは緊張したな……。


「さすがはご主人様です! 国王陛下を相手に、堂々としていらっしゃいました!」


「いや、べつにそんなことはないよ。内心はガクブルだったし……」


「それでも凄かったです! わたしは感動いたしました。やはり、私のご主人様は世界一の男なのだと!!」


 シルヴィが瞳をキラキラさせてそう言う。

 うーん、相変わらず彼女は大げさだなぁ。

 でも、褒められて悪い気はしない。

 むしろ嬉しいくらいだ。


「本当にコウタはすごいよ」


「はいなのです。ボクなんて、ずっと冷や汗をかいていたのです」


「あたいもだぜ。体が震えて、姿勢を維持するだけでギリギリだった」


「コウタ親分は頼りになるぜ」


 ユヅキ、ミナ、リン、グレイスが口々に賞賛の言葉を口にする。


「みんな、ありがとう」


 俺は照れくさくなりながらも、素直に礼を言う。


「あの……。少し確認したいのですが……」


「ん? どうした? ローズ」


「わたくしとの結婚はどうされるのです? 自力で爵位を得た以上、わたくしはもう用済みでしょうか……?」


 ローズが少し悲しげ表情でそう言った。


「とんでもない。俺はローズの家柄を目当てに結婚するわけじゃないぞ。お前は俺の女だ。手放す気はない」


 ローズは美少女だ。

 治療魔法や弓の腕も一級品だし、これからの俺の人生に欠かせない大切なパートナーである。


「まぁ……。ふふっ、そうですか」


「ああ、そうだとも」


「それなら安心ですね。これからも末永くよろしくお願いしますわ。コウタ殿」


「こちらこそ」


 俺がそう言うと、ローズは嬉しそうに微笑む。


「……それで、これからどうするの……?」


「そうだな。今日はいろいろあったし、とりあえず宿屋に戻るか」


 ティータの言葉を受け、俺はそう答える。

 朝方にエルカ迷宮を出発した後、魔物を討伐しながらエルカ樹海とエルカ草原を抜けてきた。

 俺たちにとって、そこらの魔物は大した脅威ではない。

 しかしそうは言っても、単純に歩くだけでもそれなりに疲れる。

 長期間迷宮に閉じ込められていた疲労も抜けていないしな。


「……えっと。でも、帰還したことを冒険者ギルドに報告した方がいいのでは……?」


 エメラダがそう指摘する。

 確かに、彼女の言うことも一理ある。

 俺たち『悠久の風』が行方不明になったことに対し、冒険者ギルドから捜索隊も出されていたはずだし、

 その捜索隊からはぐれてしまったセリアの無事も伝えていく必要があるだろう。


「だいじょうぶですにゃ。最低限の状況は、ギルドマスターなら把握しているはずなのですにゃ」


「そうなのか?」


「はいにゃ。上級ジョブ『ギルドマスター』のスキルがあるのですにゃ」


 ギルドマスターか。

 MSCにもあったジョブだな。

 非戦闘系のジョブなので、さほど人気はなかったが。


「それなら、報告は明日でも問題ないか」


「構わないですにゃ。取り急ぎの報告は私がしておくのにゃ」


「助かる。じゃあ、それでよろしく頼む」


 ということで、俺たちは一度宿へ戻ることにしたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る