334話 9番目の女

 エルカ迷宮の5階層の探索を進めている。


「例の強制転移に掛かったのは……5階層の中ほどだったかな?」


「そうだったと思うよ。今は6階層から5階層に入ったところだから、まだ少し先だね」


 ユヅキがそう答える。

 迷宮内の雰囲気や風景、それに出現する魔物の種類からして、ここが5階層なのはほぼ間違いない。

 もう少し進めば、探索済みの領域に到着するはずだ。


「ご主人様。あの……」


「どうした? シルヴィ」


「迷宮内では、ご寵愛が控えめとなっておりました……。無事に帰還できたら、激しく責めていただけませんか?」


「ふふふ。言われずとも、その通りだ」


 いくら女好きの俺とはいえ、生死がかかった迷宮内ではお楽しみを控えめにしていた。

 もちろん、全くのゼロというわけではないが。


「あっ、ずるい! 僕も!」


「へへっ。あたいも参戦するぜ!」


「わたくしの存在もお忘れなく」


「……えっと。できればあたしも……」


 ユヅキ、リン、ローズ、エメラダが口々にそう言う。

 ミナ、ティータ、グレイスも同じ意見のようだ。


「ああ。もちろんだよ。可愛い奴らめ。たっぷりと愛してやるからな。無事に帰還できそうなのも、みんなのおかげだからな」


 俺はそう言って、みんなを抱きしめる。


「……あのぉ」


「どうした? セリア。……ああ、もちろんセリアが助けに来てくれたことにも感謝しているぞ」


「あぅ。そういうことじゃなくてですね」


「ん?」


「コウタさんは、もしかしてパーティメンバー全員に、手を出しているのですにゃ……?」


「その通りだが?」


 それが何か問題なのか。


「コウタさんって、ものすごく女好きなのですにゃ」


「いや、それほどでもないけどな」


 俺は謙遜しておく。


「褒めてないのですにゃ。あーあ、私も狙っていたのに、残念ですにゃ」


「おっ! そういうことなら、セリアも俺のパーティに入らないか? 『槍士』はちょうどいないんだよ」


「遠慮しておくのですにゃ。私は9番目の女になんてなりませんにゃ。軽く見ないでほしいのですにゃ」


「そっかぁ。ま、仕方ないな」


 セリアは美少女だ。

 冒険者ギルドの受付嬢として、事務処理能力やコミュニケーション能力が高い。

 水魔法使いと槍士のジョブも持っている様子だ。

 また、冒険者ギルドの人間としての仕事とはいえ、俺たち『悠久の風』の捜索に来てくれるぐらいの面倒見の良さもある。

 彼女が入ってくれたら、とても心強かったのだが。


「気が変わったらいつでも言ってくれ。例の水はまた飲みたいのだろう?」


「そうですにゃ。私の気が変わることはないと思いますが、あの水は飲みたいのですにゃ」


 町に戻った後も、俺の黄金水を彼女に飲ませることになる。

 今後も話す機会はいくらでもあるだろう。

 場合によっては、強引に迫るのもありか?

 俺の超絶テクニックをもってすれば、陥落させるのも不可能ではないはずだ。

 ミナ、リン、ティータ、ローズ、グレイス、エメラダあたりと関係を持ったときも、かなり強引な手口だった。


 ……まあ、そのあたりは追々考えるとしよう。

 一歩間違えれば犯罪だしな。

 俺はそんなことを考えながら、迷宮の5階層を歩いていったのだった。

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