327話 水魔法使いの試運転

 みんなで水魔法の取得に挑戦した翌日。


「いくぞっ! 【ウォータボール】!」


「【ウォータボール】!」


「……えっと。【ウォータボール】です!」


 俺、ユヅキ、エメラダが初級の水魔法を発動する。

 俺たち3人の手から、水の塊がそれぞれ飛び出した。

 水魔法使いのジョブは何人かが取得に成功しているが、今ジョブに設定しているのはこの3人だ。


「ギャオオオォッ!」


 レッドゴブリンが悲鳴を上げる。

 3つの魔法の直撃を受けて、絶命していた。


「ふむ。これで討伐完了か」


 俺は呟く。

 この程度の魔物ならば、今の俺たちにとっては敵ではない。

 だが、問題もある。


「うーん……。やっぱり威力が低いよね……」


 ユヅキが言うように、威力不足を感じる場面が多かった。

 ウォーターボールは、言ってみればただの水の塊だからな。

 質量はそれなりにあるので悪くはない。

 だが、各属性の初級魔法である【ウインドカッター】【アイスショット】【クリエイトブロック】【スパーク】【ファイアーボール】あたりと比べ、明らかに殺傷能力が低い。


「まあ仕方ないか。これはこれで、当初の予定通り飲料水として利用できるからな」


「……えっと。そうですね。それに、良質な水があればあたしの調合も捗りますし」


 エメラダが俺の言葉に同意する。

 ウォータボールで生み出された水は、きれいな水だ。

 そのまま飲めるし、ポーションの材料にも適している。

 『氷魔法使い』が扱う各種の氷魔法でも、氷は生み出せる。

 それを溶かせばもちろん水は確保できるのだが、飲料水やポーションの材料にするには少しだけ不適切だ。

 不純物が混じっているからである。

 ジョブレベルが高いシルヴィであれば、その気になれば不純物の少ない氷を作ることはできる。

 だが余計なMPを消耗するので、できるだけそれは避けたい。

 飲料水を生成するなら、やはり水魔法使いが最適だ。


「攻撃力が低いとは言っても、火属性の魔物と戦うときには便利だよな」


「そうだね。レッドゴブリンぐらいなら十分に倒せる」


 レッドゴブリンとは、ゴブリンの亜種だ。

 その名の通り、全身が赤い。

 体温が高く、火魔法に対する耐性がある。

 その一方、水魔法は弱点としているため、初級のウォータボールでも大きなダメージを受けるのだ。


「アクティブスキルを使えば使うほど、ジョブが早く育つ。今後も無理のない範囲で使っていこう」


 ストレージに確保している飲料水は、昨日も言った通り残りが少なくなってきている。

 今後は、水魔法使いのスキルで生み出した水を利用していくことになるだろう。

 清潔な水を十分量用意するためにも、水魔法使いのジョブレベルはそれなりに上げておきたい。

 だが、強敵相手に低威力のウォータボールで無理して戦って負傷すれば、元も子もない。

 そのあたりのバランスは大切だ。


「了解だよ」


「……えっと。承知しました、主様」


 ユヅキとエメラダが答える。

 その後も俺たちは迷宮を歩いていく。


「それにしても、ずいぶんと長い迷宮ですわね」


「……アルフヘイムにある迷宮も、ここまでではなかったと思う……」


 ローズとティータが言う。

 2人が言うように、この迷宮はかなり深い。

 MSCの基準で言っても、中級クラスの長さだ。


「だが、もう少しだと思うぞ。だんだん魔物が弱くなっていっているからな」


 強制転移のトラップで深層に転移させられた俺たちは、迷宮を逆走する形で地上へ向かっている。

 進めば進むほど、魔物が弱いものに変わっていくのだ。


「よし! 気合いを入れ直して進もうぜ、コウタ親分」


「ここが踏ん張りところなのです」


 グレイスとミナがそう意気込む。


「へへっ。それによ、そろそろ誰かとすれ違ったりもするんじゃねえか?」


「ああ。リンの言う通りだな。今は、おそらく7階層から10階層あたりだろう。これぐらいなら、エルカの町の冒険者で俺たち以外に潜れる奴がいてもおかしくない」


 俺はそう答える。


「もうひと頑張り致しましょう! ご主人様の安全はわたしが守ります!」


「そうだな。俺も頑張ってみんなを守るよ。あと少しだ」


 シルヴィの言葉に、俺は大きくうなずくのだった。

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