328話 行き倒れの女性

 さらに数日が経過した。


「【ウインドカッター】!」


「……【ウッドランス】……!」


「【ダブルラッシュ】だぜ!」


 俺、ティータ、グレイスのアクティブスキルにより、魔物が息絶える。


「ふう……。かなり余裕ができてきたな。大技を出すまでもない」


 俺の大技と言えば、『英雄』の【アクセル】や【エクスカリオン】、『風魔導師』の【ジェットストーム】、『剣豪』の【ジャッジメントソード】、そして新しく取得した『疾風剣士』の【烈風一閃】あたりだ。

 しかし、これらの大技は強力ではあるものの、闘気やMPの消耗が激しい。

 迷宮の深部に強制転移させられた直後は、それでも否応なしに使わざるを得なかった。

 それが今は、比較的小技の【ウインドカッター】や【ダブルラッシュ】あたりで済ませることができるようになっている。


「もうそろそろ5階層に着くんじゃない? そうなれば、いよいよ生還だよね」


「長い道のりだったのです」


 ユヅキとミナがそう言う。

 エルカ迷宮の1階層から5階層は、比較的簡単で距離も短い。

 以前の俺たちは、日帰りで何とか通えていたぐらいだ。

 6階層以降は難易度が上がり、広さもかなりのものとなる。

 今の俺たちのように、攻略には泊まり込みが必要だ。


「へへっ。5階層にさえ到着すれば、後は楽なもんだろうな」


「そうですね。わたしたちは何度もそこで狩りをしてきましたし」


 リンとシルヴィがそんなことを言い合う。


「……でも、油断は禁物。迷宮は定期的にレイアウトを変えるから……」


「ティータ殿の仰る通りですわね。全員、油断せず行きましょう」


 ティータとローズが注意を促す。


「ああ。そうだな。ここらで、一度気を引き締め直すか」


「……えっと。わかりました。あたしも、気を付けます」


「索敵やトラップ探知は俺に任せてくれよな」


 エメラダとグレイスも、気持ちを新たにする。

 そして、俺たちは先へ進んでいった。


「……ん? あれは……」


 グレイスが何かを見つけたようだ。


「どうしたんだ? グレイス」


「ああ、ちょっと待っていてくれ。今確認するから」


 そう言うと、彼女は走り出した。


「ちょっ!? お、おい! 危ないぞ!」


 慌てて呼び止める。

 ずいぶんと浅い階層まで戻って来たとはいえ、油断は禁物だ。


「大丈夫だって。魔物じゃない」


「魔物じゃない? ……それならいいが」


 俺は少し心配しながらも、彼女の後を追った。

 するとそこには、一人の女性が倒れていた。


「……あ」


 その顔を見て、俺は思わず声を上げた。

 それは、俺のよく知っている顔だったからだ。

 いったいなぜ彼女がこんなところに倒れているのだろう?

 俺はそんなことを思いつつ、その女性に駆け寄っていったのだった。

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