318話 迷宮攻略の進展

 俺たち【悠久の風】がエルカ迷宮の深層に強制転移させられて、早くも数日が経過した。

 順調に地上へ向けて攻略中である。


「【アイスストーム】です!」


「【ストーンジャベリン】!」


 シルヴィとユヅキがそれぞれ魔法を発動させる。

 魔物の群れがダメージを負い、怯んだ。


「おらあっ! 奥義【エクスカリオン】!!」


 俺は大技を放つ。

 剣に魔力を纏わせ、それを一気に放出することで広範囲にダメージを与える技だ。

 その威力は凄まじく、魔物の群れがまとめて消し飛んだ。


「ふう……。さすがはコウタくんなのです」


「へへっ。そこらの魔物なんか、敵じゃねえな」


 ミナとリンが嬉しそうにそう言う。


「……夜はぐっすり眠れているし、順調に攻略は進んでるね……」


「そうですわね。さあ、わたくしの治療魔法で回復いたしますわ」


 ローズが手を伸ばしてくるので、俺は彼女の手を握る。


「ええっと。手を握っていただく必要はありませんよ?」


「いや、この方が魔法を直に伝達できて効率がいいはずだ」


「それもそうですわね。でも、少し照れてしまいますわ」


 彼女が顔を赤らめてそう言う。


「ローズの手はスベスベしていて柔らかいな」


「……コウタ殿の手は大きくて温かいですわね」


「まあな」


 俺はローズの手を握りつつ、彼女の顔を見つめた。


「……どうなさいましたの? そんなに見つめられましても困ってしまいます」


「ん? ああ、すまない。美人だなと思って見惚れていたんだ」


「……あら。褒めても何も出ませんわよ。ふふっ」


「本心だからしょうがない」


「……嬉しいことを言ってくださいますのね。では、せめてものお礼に、しっかりと治療をして差し上げましょう」


「頼むぞ」


 ローズが治療魔法をかけてくれたおかげで、体の痛みが取れていく。


「ありがとう。やっぱり治療魔法ってのは便利だよな」


「そうですね。ただ、魔法を使える人が限られているという欠点もありますけど」


「その通りだな。まあ、うちにはローズという一流の治療魔法使いがいるから、それで十分か」


 治療魔法使いというジョブにも、もちろん裏技じみた取得方法はある。

 少しリスクがある上、みんなから悪く思われる可能性もあったので後回しにしていた。

 だが、こういう不測の事態は今後も発生しうるし、様々なジョブを取得しておくに越したことはない。

 今後も新たなジョブの取得に挑戦していく必要がある。


「うふふ。一流だなんて、もう! コウタ殿の御力のおかげですのに……」


「それを活かすことができるのは、ローズの頑張りがあってこそさ。いつも感謝しているぞ」


 俺とローズは見つめ合い、しばしの間2人の世界に入る。


「……ローズちゃん。ティータにも治療魔法を掛けてほしいんだけど……」


「ローズの姉御。俺にも頼むぜ」


「……えっと。あたしにもお願いします」


 ティータ、グレイス、エメラダも寄ってきて、治療魔法の順番待ち状態になってしまった。


「おっと、悪い悪い。俺がローズを独占してしまっていたな」


「わたくしにお任せください。さあ、順番にお並びになって」


 ローズがそう言って、治療魔法を施していく。

 こうして、迷宮の攻略は引き続き順調に進んでいったのだった。

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