292話 エルカ迷宮 1階層 ボス周回

 エルカ迷宮の1階層のボス戦が始まろうとしている。


「でも、ボス戦ですよね? パーティのみんなの力を結集しないと勝てないんじゃ……?」


「そんなことはないさ。見ろ」


 俺はそう言って、ゴーレムを指差す。

 既に戦いは始まっている。


「おらぁっ! 【ラッシュ】だぜ!」


 グレイスのアクティブスキルにより、ゴーレムの体が欠ける。

 彼女は『悠久の風』の中ではエメラダに次いで日が浅い。

 ファーストジョブの『盗賊』やセカンドジョブの『剣士』のレベルもまだ上がりきっていないので、戦闘能力という点ではやや劣る。

 だがそれでも、ゴーレムの気を引くのには十分な攻撃だ。


 ゴーレムがグレイスに気を取られている隙に、ミナが後方から接近する。

 そして、ハンマーを大きく振りかぶった。


「【ビッグボンバー】! なのです!!」


 ドゴォン!!

 鈍い音と共に、ゴーレムが地面にめり込む。

 奴の体はそのまま粒子となって霧散した。

 もう終わりか。

 これにて討伐完了だ。


「…………」


「どうしたんだ? エメラダ」


 呆然と立ち尽くすエメラダに、俺は声をかける。


「えっと……。凄すぎて言葉が出ませんでした……。このパーティはいつもあんな感じなんですか?」


「ああ」


 俺は苦笑して答える。


「そ、そうなんですか……。道中の皆様も凄かったですし……。とんでもないパーティに入ってしまったようですね……」


「まあ、これぐらいはな。エメラダもすぐに追いつけるさ」


「は、はい! 頑張ります!」


 エメラダはやる気に満ちた顔で言った。


「ふう。どうやらボクの実力もずいぶんと上がっているみたいなのです。ゴーレムをこんなに簡単に倒せるとは思っていなかったのです」


「そうだな。ミナの一撃は以前から強かったが、テツザンやアルフヘイムでの活動を通して強くなっているな」


「ありがとうなのです。嬉しいのです。もっと強くなって、コウタくんの役に立てるようになるのです」


 ミナは頬を赤く染めながら言う。


「ははは。期待しているよ」


 俺はミナの頭を撫でた。


「ふぇ!? こ、子ども扱いしないでほしいのです! もうっ!」


 ぷいっとミナは顔を背ける。

 しかし、口元は緩んでいた。


「さて。とりあえず、ここのボスを周回しようか」


「そうだね。あっさりとオリハルコンがドロップすればそれでよし」


「なかなかドロップしなければ、次の階層に向かえばいいしな」


「ええ。その頃には、エメラダ殿のジョブレベルも上がっていることでしょう」


 ユヅキ、リン、ローズがそう答える。

 このあたりは、事前に相談していた通りだ。

 俺たちは迷宮を戻り、再びゴレームに挑む。

 そうして、1階層のボス戦を周回していったのだった。

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