293話 闇魔法使い

 俺たち『悠久の風』がエルカ迷宮に潜り始めて、1週間ほどが経過した。

 この1週間で、エメラダのジョブレベルはかなり上がった。

 また、最低限の身のこなしや度胸もついてきた様子だ。

 しかし残念ながら、当初からの目的であるオリハルコンはドロップしていない。


「……えっと。【ダークアロー】です」


 エメラダの手のひらから闇の矢が射出され、ゴレームに深々と突き刺さった。

 それがトドメとなり、ゴレームは霧散した。

 これにて討伐完了だ。


「見事だ。エメラダのセカンドジョブに設定した【闇魔法使い】も順調に成長しているようだな」


「……えっと、はい。主様のおかげです。あたしがこんな珍しいジョブを得ることになるなんて……」


 魔法使い系のジョブはやや希少だ。

 その中でも闇魔法使いは、さらに一回り珍しい。

 語感としてあまり印象が良くないので、まっとうな鍛錬でわざわざ闇魔法使いになろうとする者は少ない。

 もっぱら、特殊な条件下で取得した者が多くなるだろう。


 イメージが良くないだけで、その有用性は他の魔法に決して引けを取らない。

 今回も、ゴレームのトドメをしっかりと刺すことに成功している。

 彼女を奴隷として購入した直後、路地裏で強引に関係を持ったかいがあったというものだ。


「さて。エメラダのジョブも成長したことだし、打ち合わせした通りそろそろ2階層に向かおう」


「了解ですわ」


「わかったぜ!」


 俺たちは階段を下りていく。

 2層目は1層と比べてひと回り広い。

 外観は、1階層と同じくただのほら穴のような感じである。

 ただし、魔物の出現頻度は高い。


「……あっ! 来た……」


 ティータの声に反応して前方を見る。

 リトルブラックタイガーの出現だ。

 かつて食材集めのためにこのあたりで狩りをしたことがある。

 以前と構成が変化しているが、どことなく懐かしさも覚えるな。


「リンさん、行くよ!」


「へへっ! 任せとけって!」


 ユヅキとリンが真っ先に飛び出す。

 リトルブラックタイガーは彼女たちに狙いを定め、突進してきた。


「【ソードオブジャッジメント】!」


「【ライトニング】だぜ!」


「グルルアアアァッ……!」


 二人の攻撃により、リトルブラックタイガーはあっさりと絶命する。

 そして、光の粒となって消えていった。


「よし。良い調子だ」


「うん。僕も強くなってるね」


「あたいもだぜ。前よりもリトルブラックタイガーを楽に討伐できる」


 俺の言葉に、ユヅキとリンが答える。

 今の俺たちにとっては、2階層もそれほど厄介ではないな。

 そうして、狩りは順調に進んでいったのだった。

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