260話 薬草採取

 エルカ樹海に到着した俺たち『悠久の風』は、早速採集を始めた。

 Bランクパーティとして確かな実力を持つ俺たちではあるが、採取の依頼を受けることは少しめずらしい。


「薬草か。俺に任せてくれ。採取した経験がある」


 グレイスが張り切って進み出る。


「へへっ。あたいも、山菜集めは慣れてるぜ!」


 リンがそう言った。


「……ティータも頑張る……」


「もちろんわたしも精一杯取り組みます!」


 ティータとシルヴィはやる気十分といった様子だ。

 ユヅキ、ミナ、ローズも交え、8人で手分けして探すことにした。


「この辺りは、比較的見つけやすい場所みたいですね」


 シルヴィが周囲をキョロキョロと見回しながら言う。


「ああ。分かりやすい場所だな」


 俺はMSCの経験を思い出しながら答える。

 薬草採取は駆け出し冒険者にとって鉄板の依頼だ。

 ゲームで何度も行った経験がある。

 MSCとこの世界は異なる点も多いのだが、類似している点も多い。


「僕も何度か経験があるよ。『大地の轟き』のみんなといっしょに」


 ユヅキは冒険者として俺よりも先輩だ。

 当然、こういう依頼を受けたことがあるのだろう。


「ボクはないのです。こういうチマチマした作業は苦手なのです」


「わたくしも、汚れる仕事はあまり経験がありませんわ」


 ミナとローズは、あまりこういった依頼が得意ではないようだ。


「まあ、地道にやっていこう。この人数ならすぐに終わるさ」


 俺はみんなに声をかけながら、手頃な薬草を探していく。


「おっ! 少し珍しい薬草があったぞ!」


 グレイスが声を上げた。

 彼が指差している先には、白い花が咲いている。


「本当だ! よく見つけたな。ホワイトフラワーだ」


 ハイポーションの材料となる薬草だ。

 俺は感心しつつ、その草に手を伸ばす。

 だが……。


「ちょっと待ったぁー!!」


 突如、大声で叫んだ人物がいた。


「ん? なんだ?」


 俺は思わず振り返る。

 そこには、武装した男たちの姿が見えた。

 人数は10人ほどだろうか。


「おい! そいつをこっちに渡せ」


 先頭にいた男が言う。


「これはうちのパーティのものだ。あんたらに渡す理由がないな」


 俺はそう言い返す。


「黙れ! そのホワイトフラワーは、俺たちが目を付けていたやつだ。お前みたいな新参者が勝手に摘み取るんじゃねぇ」


「ふん。森に生えている薬草は、早い者勝ちだろ?」


「うるさい! とにかく寄越すんだ!!」


 やれやれ……。

 マナーの悪い奴らだ。

 私有地内で栽培している薬草ならばともかく、森の中に生えている薬草は見つけて採取した者に所有権がある。

 ここは、実力行使で分からせてやるとするか。

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