222話 カイゼルの奥の手

 俺はカイゼル、黒狼団メンバー、ゴブリンたちの波状攻撃を受けた。

 だが、上級ジョブである『英雄』の超スキル【アクセル】の前では、大した攻撃ではない。


 俺は奴らの攻撃を軽く回避し、反撃した。

 そして、【アクセル】状態を解く。


 このスキルは超強力なのだが、闘気と魔力を大量に消耗する。

 あまり長時間は使えないのだ。

 しかし、この一瞬の発動でも今の相手には十分である。


「がっ!!」


「「「ぎゃあああぁっ!!」」」


「「「ギイイイィッ!!」」」


 カイゼルたちは俺の攻撃を受けて、次々と倒れていった。

 さらには、周辺の木々にも甚大な被害が出ている。


 これが【アクセル】の怖いところなんだよな。

 加速状態で繰り出した攻撃は、何気ない攻撃にも必殺級の破壊力がある。

 MSCでは、よくパーティメンバーを巻き込んで殺してしまっていた。


 純粋なゲームならプレイヤーキルのペナルティと実際の有用性を天秤にかけて使えばいい。

 だが、ここは現実味のある世界だ。

 ひょっとしたらゲームの世界なのかもしれないが、それはそれとして感覚的には現実味がある。

 万が一にも仲間を巻き込むわけにはいかない。


 だからこそ、シルヴィやユヅキたちには避難してもらったのだ。

 事前に『英雄』のスキルを共有しておいてよかった。


「よし。これで一網打尽かな」


 黒狼団の連中もゴブリンも、もう動ける者はいなかった。

 ……ん?

 いや、待て。


「ぐぐぐ……。そう簡単にやられてたまるか!」


 カイゼルがそう言って立ち上がる。

 さすがは盗賊団の親分だけあって、しぶとい。


「はあ、はあ……くそっ。なんて強さだ」


 しかし、彼が満身創痍なのは間違いなかった。

 【アクセル】で加速した状態の俺の攻撃を受けて無事なわけがないのだ。

 黒狼団の他のメンバーやゴブリンたちへと攻撃が分散された分、かろうじて立ち上がれる程度の元気が残っているだけである。


 それに、俺の攻撃は相当に手加減していたからな。

 別にカイゼルの命を大切にしたのではなく、周囲の地形や自然への配慮だ。


「ふん。まだやるのか? 無駄なことを」


「うるせえ! まだ終わってねえんだよ!」


 カイゼルが叫び、懐から何かを取り出す。


「これは本当に最後の切り札だ。ザードの野郎に借りを作るのは気に入れねえが、この際仕方ねえ」


 それは小さな瓶のようなものだった。


「なんだそれ?」


「へっ、冥途の土産に教えてやろう。こいつは『エリクサー』だ」


「『エリクサー』だと!?」


 あらゆる傷や病を癒す奇跡の力を持ったポーションの一種だ。

 非常に貴重なもので、市場にはほとんど出回らない。


「これを飲めば、俺はまた戦えるようになる」


 カイゼルはそう言うと、その薬を飲み干した。


「うおおぉー!!」


 カイゼルの身体が光り輝き、みるみると回復していく。


「ああ、もったいねえ……」


 その光景を見た俺は思わず呟いた。

 『エリクサー』は滅多に手に入らない貴重品なのだ。

 それをこんな盗賊ごときの治療ために消費するとは……。

 どうせ回復したところで、俺に勝てるはずもないのに。

 瞬殺して思い知らせてやるとするか。

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