223話 もう斬った
俺の【アクセル】により侵略者たちを一網打尽にした。
だが、黒狼団の頭目カイゼルだけはギリギリ生き残り、さらにはエリクサーで全回復した。
「ふう。スッキリしたぜ。日々の疲れやちょっとした傷も治ったぜ」
カイゼルはすっかり回復した自分の体を見て言った。
「さあ、やろうぜ。第二ラウンドだ」
「…………」
俺は黙ってカイゼルを見つめた。
こいつは何を言っているんだ?
「おい! 何をぼけっとしてる! 早く来いよ!」
「やれやれ……。気付いていないのか。哀れな奴だな……」
「ああん? なにがだよ?」
カイゼルが疑問を口にする。
「もう斬った」
「は?」
次の瞬間、俺の剣によって体の腱を切り裂かれたカイゼルが倒れ込んだ。
致命傷ではないが、もはやまともに動けないだろう。
這いずって逃げる程度ならまだしも、戦闘は不可能だ。
「な、なん……で……」
カイゼルの顔には驚愕の表情が張り付いていた。
俺が再度発動した【アクセル】による攻撃を知覚できなかったらしい。
「お、俺たちは……最強の……」
「最強とは言っても、所詮は無法者の中での話だろう? 真の強者は、己の力を誇示しないものだ」
俺はカイゼルの言葉を遮ると、ゆっくりと歩いて近寄っていった。
「ひいっ!」
カイゼルが恐怖のあまり後ずさりする。
しかし、俺は容赦なく長剣を振り下ろした。
「ぐわあぁっ!」
カイゼルが悲鳴を上げる。
まだ死んでいない。
結構力を入れて斬ったのに、タフだな。
だが、ここまで来れば頑丈なだけではどうにもならない。
死に至るまで斬ればいいだけだ。
這いずって逃げるカイゼルに追いつき、俺は再び剣を振り上げる。
「ま、待て! 俺は心を入れ替える! だから命だけ助けてくれ!!」
カイゼルはそう叫ぶと、地面に頭をこすりつけて土下座をした。
俺から逃げ切れないと判断したのだろう。
プライドの欠片も感じられない哀願である。
「ダメだ。盗賊団のリーダーを見逃せるわけがない」
俺は最後のトドメとばかりに、大量の闘気を込めた剣を振り上げる。
そのときだった。
「待った! カイゼル親分を殺さないでくれっ!!」
一人の少女が飛び出してきたのである。
「グレイスか。どうして戻ってきた?」
彼女は、シルヴィやユヅキたちと共に撤退したはずである。
俺の【アクセル】に巻き込まれたらヤバいからな。
今はもう戦闘がひと段落したので、問題ないと言えば問題ないのだが。
「カイゼル親分が心配で戻ってきたんだ」
「……何? それは聞き捨てならんな。グレイス、お前は誰の女になったのか忘れたのか?」
彼女は既に俺の女だ。
激しい尋問と拷問の末、そう誓わせたのである。
「だ、だけどよ……。カイゼル親分は俺の親みたいな存在だし、恋人のみたいな存在でもあるんだ……」
グレイスがそう言う。
黒狼団のメンバーはほとんどが男だ。
そんな中にいる数少ない女は、当然リーダーや幹部クラスの男たちに可愛がられることになる。
グレイスはその中でも特別な存在らしい。
「おお……。その通りだグレイス。育ててやった恩を返せ。その男を殺し、俺を助けるんだ!」
カイゼルが歓喜の声を上げた。
ちっ。
面倒な展開になってきたな。
問答無用でカイゼルを殺すか。
それとも……。
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