215話 黒狼団を裏切ってもらいたい

 シルヴィやユヅキのおかげで、グレイスからさらなる情報を得ることができた。

 もう用済みだ。

 適切に処分するために、シルヴィとミナが詠唱を始める。


「ひ……。いやぁ……」


 グレイスは怯えて逃げようとするが、ここは地下牢であり逃げ場などない。

 そうこうしている間にも、シルヴィとミナの詠唱は進んでいる。


 攻撃魔法は、魔力の含有量が少ない物に対しては高威力を発揮する。

 しかし、魔物や人間などに対して使用する場合には、その対象が持つ魔力量に応じて威力が減衰されてしまう。

 グレイスが万全の状態ならば、一発や二発の攻撃魔法では致死級のダメージは与えられないだろう。


 ただ、今は違う。

 彼女には散々尋問された後であり、体力が消耗しきっている。

 そこにシルヴィとミナの二人による連続攻撃をまともに食らえば、命を落とす可能性だってあるだろう。


「い、嫌ぁああっ! 死にたくないぃいっ!」


 彼女は泣き叫びつつ、必死に逃げようとする。

 だが、もちろん逃げ場はない。


「あ…………」


 彼女が自らの死を悟ったような声を上げた瞬間。

 ブッシャァアアッという音とともに、彼女の秘所から大量の尿が吹き出した。


「あ……ああっ……」


 グレイスが呆然とした表情を浮かべる。

 恐怖のあまり、漏らしたか。

 悪巧みをしていた者とはいえ、こうなると哀れなものだな。


「シルヴィ、ミナ。魔法の詠唱を中断してくれ」


「はい!」


「わかったのです」


 俺の指示で、シルヴィとミナは魔法を解除する。

 グレイスがガクリと膝をつく。

 俺はそんな彼女に近づくと、肩に手を置いた。


「ひいいいいっ!」


 グレイスが怯えた声を上げる。


「安心しろ。お前を始末するのは簡単だが、それはしない。やってほしいことがあるからな」


「ほ、本当か?」


 グレイスの表情が明るくなった。

 自分が助かったと思っているらしい。


「ああ。俺たちに協力してほしいんだ」


「お、俺にできることなら何でもする! だから、殺さないでくれ!」


 グレイスが叫ぶ。

 さっきまでとは態度が百八十度変わったな。

 やはり、一度脅しておけば従順になる。

 利用できるものは、なんでも利用しよう。


「まず、お前には、黒狼団を裏切ってもらいたい」


 黒狼団とは、彼女が所属する盗賊団の名前である。


「なんだと?」


「俺たちはこれから、黒狼団を迎え撃つ。そして、壊滅させるつもりだ」


 俺は続ける。


「より確実に壊滅させるために、お前の力を貸してほしい」


「お、俺に黒狼団のみんなを裏切り、お前たちの味方になれと言うのか?」


 グレイスは困惑の表情を見せる。

 そりゃそうだよな。

 いきなりこんなことを言われても困るか。


「そうだ。そうすればお前の命だけは保証してやる」


 この世界において、弱肉強食こそが真理である。

 弱者であるグレイスは従うしかない。


 俺たち『悠久の風』やエルフの戦力だけでも迎え撃つことはできるが……。

 グレイスの協力があれば、さらに戦いを優位に運べる可能性がある。

 できれば味方に引き込んでおきたいところだ。

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