205話 挙動不審な少年

 エルフの里アルフヘイムの周辺の森を探索していたところ、行き倒れらしき少年を発見した。

 ローズの治療魔法により、彼が回復していく。


 やはり治療魔法は便利だな。

 別にポーションで回復させてもいいのだが、ポーションは消耗品だからな。

 治療魔法使いがパーティにいると、出費を抑えられるし、ちょっとしたケガでも気軽に治療して万全な状態を維持しやすい。


「……はっ!? ここは……?」


 少年は目を覚ましたようだ。


「気がついたか」


 俺が声をかけると、彼はこちらを見つめる。


「お前たちはだれだ?」


「俺たちは冒険者パーティ『悠久の風』というものだ。俺はリーダーをしているコウタだ」


 俺はそう名乗る。

 続いて、シルヴィやユヅキたちも挨拶を済ませていく。


「……ティータの名前はティータだよ。それで、あなたはこんなところで何をしていたの……?」


 ティータがそう問う。


「ええと、俺は……って、エルフ!?」


 少年が突然慌て出す。


「落ち着け。別に取って食おうとしているわけじゃない。むしろ、お前を助けたんだ」


 俺はそう説明する。


「そ、そうだったか。ありがとう」


 少年がそう言う。

 だが、彼の額には玉のような汗が浮いていた。


「まだ体調は万全ではないみたいだな。もう少し休むといい」


 俺はそう声をかけたのだが……。


「いや! もう大丈夫だから!」


 彼はそう言って起き上がる。


「無理をするな。また倒れたらどうする?」


 俺の言葉に、彼は首を横に振る。


「本当に平気なんだ」


 うーむ。

 確かに、体調は問題なさそうか?

 あの汗は気になるが……。

 体調不良ではないと本人が言っている以上、これ以上止める理由もない。


「わかった。それじゃあ、とりあえずアルフヘイムに戻るか」


 俺たちは立ち上がる。


「ア、アルフヘイムだって? 幻の里と言われる……」


 彼が驚いたようにつぶやく。


「ああ。知っているのか?」


「噂だけは聞いたことがある」


 エルフは他種族とあまり交流を持たない。

 ましてや、集落に招き入れるなど滅多にないことだろう。

 エルフにゆかりのない者であれば、存在自体が幻だと感じても不思議ではない。


 だが、この俺は別だ。

 エルフの宿敵であるブラックワイバーンを討伐し、ティータというエルフの知己も得た。

 排他的なエルフが俺を受け入れたことも納得のいく話である。


「俺まで付いて行っていいのか?」


 少年がそう尋ねる。


「ああ。まさか森の中に一人置いていくわけにもいかないしな。それで、お前は森で何をしていたんだ?」


 先ほどもティータが聞いたが、話の流れで結局答えてもらっていない。


「え、ええっと……」


 少年が目を泳がせる。

 何だか挙動不審だな。

 しっかりと詰問しておくことにするか。

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