138話 鍛錬の途中経過

 道場に入門して1か月ほどが経過した。

 基本的には毎日鍛錬しているが、たまには休日も設けている。

 また、冒険者として魔物狩りを行う日もある。

 ずっと格闘の鍛錬ばかりだと、狩りの感覚がにぶるからな。

 そして、肝心の格闘の調子はというと……。


「逞しき武の神よ。我が肉体に奇跡を与え給え。裂ける一撃。裂空脚!」


 俺の鋭い回し蹴りが師範を襲う。


「ぐむ……。見事に『格闘家』のジョブを習得したな。素晴らしい才能だ」


「ロドリゴ師範の的確な指導のおかげさ。ありがとう」


 俺はそう言う。

 そして……。


「へへっ。あたいの成果も見てくれよ。……せいやぁっ!!」


 リンがそう言って、力む。

 彼女の体からオーラのようなものが立ち上っている。


「おおっ!」


 ロドリゴが驚いたような顔をする。


「なかなかの『気功』だ。ずいぶんと出力が増しておる」


「へへっ。頑張った甲斐があったってもんだぜ」


 リンが得意げな顔を見せる。


「そうだな。お前はよくやったと思う」


 俺は素直な感想を口にした。


「おっ? コウタっちからも認めてもらえたか」


「ああ。頼りになるパーティメンバーがいて、ありがたいよ」


 俺はそう言う。

 格闘技においてはリンが『悠久の風』の中でナンバーワンだ。


「むむっ! わたしも負けませんよ! ……と言いたいところですが」


「まだまだ『格闘家』のジョブは取得できそうにないね。コツは徐々に掴めていると思うんだけど」


「なかなか難しいのです」


 シルヴィ、ユヅキ、ミナがそう口にする。


「焦らずじっくりやるといい。時間はたっぷりあるのだから」


 ロドリゴがそう言う。

 確かに、時間はいくらでもある。

 俺たち『悠久の風』の稼ぎは、鍛錬の間のわずかな冒険者活動からしか得ていない。

 しかし、俺の各種チートスキルやみんなの精強さにより、そのわずかな時間でも最低限の稼ぎは得られているからな。


「師範の言う通り、焦る必要はない。だが、俺が掴んだコツを後で伝授してやろう。ふふふ」


 正確に言えば、MSCで得た知識をそのまま流用するという話だが。


「ご主人様、ありがとうございます!」


 シルヴィが素直にそうお礼を言う。


「うっ。なんか、また変なことをされそうな予感がする……」


「なのです。コウタくんは、変なことばっかりするのです」


 ユヅキとミナが不安そうな表情をする。


「失敬な! 別におかしなことはしないぞ!」


「いや、コウタっちは変態だからな。その点についてはまったく信用できねえ」


「リンまで!」


 俺の信用がなさすぎる件について。


「ふむ。よくわからんが、コウタには鍛錬の秘訣の心得があるのだな? 危険がないものであれば、やってみるといい」


「おう。帰ってから伝えてみるつもりだ」


 ロドリゴ師範の許可も得た。

 さっそく、帰ってから宿屋で試してみよう。

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