137話 気功術

 その後もしばらく鍛錬を続ける。

 『獣闘士』のジョブを持っているリンはやはり高評価だった。

 ミナの剛腕、ユヅキの身のこなしもなかなかだ。

 シルヴィは……やる気はある。

 今後に期待だ。


 そして、昼休憩を取る。

 昼食を終えた後は座学の時間だ。

 武術に関する講義を受ける。


「『気功術』というのは知っているか?」


「聞いたことがあるような、ないような……?」


 ユヅキが首をひねる。


「知らないですね……」


 シルヴィも似たような反応だ。


「ボクも初めて聞く言葉なのです」


 ミナもわからないようだ。


「『気功術』とは、身体に流れる魔力を気功に変換し、身体能力の底上げに使う技術だ。『格闘家』『獣闘士』などのジョブ持ちが使うことが多い」


 俺はそう説明する。

 MSCではそうだった。


「ほう。よく知っているな」


 ロドリゴが感心したように言う。


「『獣闘士』のジョブを持つあたいはもちろん知っていたぜ。というか、普段から使っていたしな」


「そうなのですか!?」


 シルヴィが驚く。


「確かにリンは使っていたな。だが、残念ながら『気功術』を使えるようになるには、かなりの修練が必要だ。今の俺たちにはまだ早いかもしれない」


「うむ。基本的には『格闘家』や『獣闘士』のジョブを取得してからの話だな。しかし稀に、『気功術』をすんなりと使えるようになる者もいる。そういう奴は、ジョブの取得も早い」


 ロドリゴの説明が続く。

 『気功術』の習得が先か、ジョブの取得が先か。

 どちらもあり得る。


「へえ。そうなんだ」


「じゃあ、リンさんってすごい人なんじゃないんですか?」


 ユヅキがそう呟き、シルヴィが問う。


「そうだな。リンはすごいぞ」


「へへっ。それほどでもねえよ。あたいは小さい頃から定期的に鍛錬していたからな」


 そんな会話をしつつ、座学は進んでいく。

 今日はここまでだ。

 俺たちは道場の片付けを手伝ったあとで、帰路につく。

 その途中。


「おーい! みんな!」


 聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 ユーヤだ。

 その後ろから、アーノルドとレオン、そして『大地の轟き』の面々も歩いてくる。


「おう、ユーヤもこの道場で鍛錬していたんだよな?」


「ええ。俺たちは準師範に稽古をつけてもらいやした!」


 ユーヤがニコニコしながらそう答える。


「そうらしいな。せっかくだし、ともに鍛錬するのかと思ったが……」


 俺はそう言う。

 別に野郎といっしょに行動する趣味はないので、どうでもいいと言えばどうでもいいが。


「もちろんそれも悪くねえ。しかし、1人の指導者が面倒を見れる人数にも限りがあるからな」


 アーノルドがそう言う。


「なるほど」


「ま、数か月もあれば『格闘家』のジョブは取得できるだろう」


「数か月か」


「なあに。魔物戦の感覚を忘れないようにたまには狩りをしてもいいし、ジョブの取得が難航するようなら諦めるのもありだ。その頃には、多少は身のこなしが向上しているだろうしな」


「わかった。できれば、取得してから帰りたいものだな」


 俺は、『格闘家』や『気功術』の裏技じみた習得方法を知っている。

 とはいえ、あまりにも早く取得すると師範やアーノルドたちに不審に思われるかもしれない。

 それに、ジョブとは無関係に鍛錬の経験を積むのも悪いことではない。

 ジョブの取得やジョブレベルの上昇だけでは、経験までは身に付かないからな。

 しばらくは真面目に鍛錬をするのがいいだろう。

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