94話 奴隷商館へ

 シルヴィの購入代金の分割払いにやって来た。

 ミナとリンから資金提供を受けたので、返済資金はバッチリだ。

 今日で完済してしまおう。


 ここに来たのは、俺とシルヴィの2人である。

 資金提供者のミナとリンには悪いが、遠慮してもらったのだ。

 奴隷商館という微妙な場所で、シルヴィが複雑な思いを抱くかもしれないからな。


「ふんふふーん。さあ、ご主人様。行きますよ!」


 シルヴィが上機嫌にそう言う。

 俺が気にしすぎなだけか?

 彼女は奴隷商館に行くことを気にしていないようだ。


「ああ。そうだな」


 俺とシルヴィは、2人で奴隷商館の入口に向かう。

 シルヴィは、ずいぶんと自信を取り戻したものだ。


 以前ここに分割払いに来たときには、返品されるのではと取り乱していた。

 俺が彼女を手放すはずがないと、今の彼女は理解してくれているのだろう。

 その点で、俺と彼女は確固たる信頼関係を構築しているということになる。

 喜ばしいことだと考えていいだろう。


 入口の門番に話しかけ、中の応接室に案内される。

 応接室のイスに座り、ルモンドを待つ。

 隣に座るシルヴィが神妙な顔をしている。


「いよいよですね……。この支払いが終われば、とうとうご主人様と……」


「ああ、そうだな」


 シルヴィを購入した当時、俺には担保となるような財産がほとんどなかった。

 俺が分割払いを滞らせたときには、シルヴィを返却して分割払いの残りを回収する取り決めとなっていた。

 彼女の価値を保全するために、俺が彼女に肉体的に手を出すことは禁じられていた。


 分割払いを終えれば、その縛りがなくなる。

 とうとう、俺とシルヴィが結ばれる日が来るのだ。


「うおおおおっ!! 燃えてきたぁ!!」


「ご主人様!?」


 思わず叫んでしまったようだ。

 シルヴィが驚きの声を上げる。

 さらにタイミング悪く、ちょうどルモンドが入ってきた。


「お待たせして申し訳ありません。どうかされましたか?」


「いや、何でもない。ちょっとした気合い入れだ」


「そうですか。それならばよろしいのですが……」


 何とかごまかせたようだ。


「さて、本題に入ろう。今回の分割払いの件だ」


「ええ、よろしくお願いします。滞りなく支払いいただき、ありがとうございます。やはりコウタ殿は、私の見込んだ通りのお方ですな」


 組んだ分割払いを滞りなく支払っていくこと。

 簡単なようで、意外と難しい。


「ふっ。そう言ってもらえると、嬉しいものだ。しかし、まだ褒めるのは早いぞ?」


「と、言いますと?」


「ほら。これを見てくれ。残っている分割払いを、これで全て完済できるはずだ」


 俺は金貨を入れた小袋をテーブルの上に置く。

 あらかじめストレージから出して準備していたのだ。

 ルモンドが小袋の中身を確認する。


「な、なんと……! このわずかな期間で、これほどの金額をご用意されたと?」


「ああ。冒険者として順調に活躍できていることに加えて、パーティメンバーにちょっとした臨時収入があってな。融通してもらったのだ」


 ミナが領主からの鍛治の依頼を達成した報酬金。

 そして、リンが料理コンテストで3位に入賞した賞金だ。


「冒険者として順調にご活躍されていることは存じています。しかし、パーティメンバーと言いますと……。ああ、ミナ殿とリン殿でしたか……」


 ルモンドの情報力はさすがだ。

 臨時でパーティを組んでいるだけのミナとリンのことをしっかりと把握している。

 まあ、こちらとしても隠しているわけではないが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る