64話 『悠久の風』の合流

 俺とリンは無事にモンスターハウスを攻略した。

 出口が開放されたので、部屋から出る。

 シルヴィ、ユヅキ、ミナが近づいてくる気配がある方向に進み始める。

 そして、しばらく歩いた頃ーー。


「ご主人様!」


 シルヴィが涙目でこちらに駆け寄ってくる。

 そして、俺の胸に勢いよく飛び込んできた。


「来るのが遅れて申し訳ありません! 途中で、何度かリトルブラックタイガーに遭遇してしまって……」


 俺の胸の中で、シルヴィがそう謝罪する。


「それなら仕方ないさ。それに、モンスターハウスは外部から容易には侵入できない。俺とリンががんばって突破するしかなかった」


 俺はシルヴィの頭をなでながら、そう言う。

 モンスターハウスに外部から侵入する方法も実はあるのだが、今は置いておこう。


 彼女たちが道中に遭遇したリトルブラックタイガーも、もちろん油断できない相手だ。

 あまり急ぎすぎては、痛手を負うリスクがあった。


「あれがモンスターハウスに転移させるトラップなんだね。僕、始めて見たよ」


「ああ。ユヅキは、数回ぐらいしかダンジョンには来たことがなかったんだったな」


 彼女の冒険者歴は俺よりも長いが、メインはエルカ草原での狩りだったそうだ。

 あまり幅広い知識や経験があるわけではない。


「ボクも心配したのです。コウタくんとリンさんが無事で何よりなのです」


「俺としても、ミナたちが無事でよかったよ。俺が無事でそんなに嬉しいか?」


「はいなのです。オリハルコンを集めるには、コウタくんの戦闘能力は必要なのです」


 そういう意味だったか。

 男女の仲として俺を心配してくれたわけではなかったと。

 まあ、俺とミナはまだそこまで仲を深めていないし、当然ではあるか。


「みんな、すまなかったな。あたいのせいで迷惑をかけた」


 リンが頭を下げ、そう謝罪する。


「ご主人様が無事だったので不問としましょう! わたしも、前回は宝箱を同じように開けてしまいましたし……」


「ボクも、気持ちはわかるのです」


 シルヴィとミナがそう言う。

 彼女たちも、宝箱に対する警戒心が低いという意味ではリンと同罪だ。

 たまたま今回は、リンが開けた宝箱に危険なトラップが仕掛けられていた。


「今後は注意してね? 低層とはいえ、ダンジョンは危険な場所なんだから」


 ユヅキがそう注意する。

 『悠久の風』の良心が彼女だ。


「俺も、リーダーとしていろいろな情報を集めて指揮をしないとな……」


 ミナとリンは、彼女たち自身の目的もあるとはいえ、基本的には俺の勧誘を受けて一時的に『悠久の風』に加入している形だ。

 それぞれ『槌士』や『格闘家』として鍛えていた時期もあるそうなので、戦闘能力には期待していた。


 しかしもちろん、冒険者としての経験には乏しい。

 勧誘した側の責任として、ダンジョンの警戒すべき点などをもっと事前に通達しておくべきだった。

 そういう意味では、俺にも責任がある。


 俺たちは、5人でひと通りの反省を終えた。

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