52話 ミナと休憩
ミナが鍛冶をしている。
俺は、それをおとなしく見守っている。
「そおぃっ! なのです!」
ミナは既に汗だくだ。
彼女のいい汗の香りがこちらまで漂ってくる。
彼女の鍛冶の腕前は、中級ぐらいか。
『鍛冶師』のレベルはまだ低いはずだが、技量自体は付いている様子だ。
さすが、領主からオリハルコンの加工を任されるだけはある。
彼女が順調に鍛冶を進めていく。
そして、しばらくして。
「ふぃー。まずは、短剣が出来上がったのです。成功なのです」
ミナが満足げな表情でそう言う。
「見事だ。すばらしいな」
「ありがとうなのです。次は、防具をつくるのです」
「休憩はしないのか? 疲れているだろう?」
ミナは既に汗だくだ。
鍛冶を始めてから数時間が経過しているし、疲労も蓄積しているはず。
「……それもそうなのです。前回は、根を詰めすぎたから失敗したのです。同じ過ちを繰り返すところでした。ありがとうなのです、コウタくん」
「いや、お礼を言われるほどのことじゃない」
俺はそう言っておく。
友好は深めたいところだが、あまり小さなことを強調しすぎるのもな。
「では、お昼ごはんを食べて休憩するのです。朝食の残りがあるのです。コウタくんもよければ食べるのです?」
「ああ、いただこう。俺も、アイテムバッグにいくらかの食料はある。もし足りなければ、それを提供しよう」
「ありがとうなのです。よろしくなのです」
俺とミナは、鍛冶場を離れて食卓へ向かう。
ミナの家は、鍛冶場と隣接している。
「お邪魔する」
「汚いところですが、どうぞなのです」
これがミナが普段生活している空間か。
すうっ。
俺は鼻から空気を吸い込む。
どことなく、いい香りがする。
ただ、ミナも言っている通り、室内はやや汚い。
不潔というわけじゃなくて、単純に散らかっている感じだ。
「あう……。ジロジロ見ないでなのです。男の人を上げるのは、実は初めてなのです」
ミナが顔を赤くしてそう言う。
「そうか。つまり、ミナの初めてを俺がもらってしまったということだな」
「なんだか、言い方がいやらしいのです」
ミナがジト目でこちらを見る。
表情豊かで、かわいいな。
「まあいいのです。とりあえず、こっちのテーブルでご飯を食べるのです」
「テーブルか。何やら荷物でいっぱいのようだが……」
テーブルの上には、いろいろな小物やゴミなどが散乱している。
とても食事をできる環境ではない。
「心配ないのです。こうやって、スペースをつくるのです!」
ミナが、豪快にテーブルの上の物を床に落としていく。
適当だな、おい。
彼女は鍛冶師としては優秀で、戦闘でも力強い攻撃を見せる。
しかし、私生活は結構ズボラなようだ。
まあ、俺はあまり気にしないが。
これはこれでギャップがあってかわいいというものだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます