31話 チンピラ再び

 数日が経過した。

 たまには休日も設けつつ、俺とシルヴィはエルカ草原での狩りに精を出している。


 今日もたくさんのホーンラビットやゴブリンを討伐した。

 魔石がそこそこ濃くなってきたので、少し早めに狩りを切り上げて冒険者ギルドに換金に来たところである。


「よう。セリアちゃん」


「お疲れ様ですにゃ。コウタさんとシルヴィちゃん。本日はどうされましたかにゃ?」


 海猫族のセリアがそう言う。

 彼女の青い髪は今日も美しい。


「魔石を売りに来た。こいつを見てくれ。どう思う?」


「すごく……大きいですにゃ。それに、いい感じに黒いですにゃ。高い値段で買い取れそうですにゃ」


 彼女が魔石を測定器にセットする。

 彼女が告げた買取金額に俺は同意する。

 そして、彼女が買取処理を進めていく。


「こちらが今回の報酬ですにゃ。お受け取りくださいにゃ」


「ああ。確かに」


 俺はそう言って、受付から離れようとする。

 と、そこにーー。


「あれ? コウタじゃないか」


「コウタの兄貴! お疲れ様です!」


 ユヅキとユーヤだ。

 他の『大地の轟き』のメンバーもいっしょである。


「おう。ユヅキとユーヤか。狩りの帰りか?」


「そうだね。エルカ草原で狩りをしてきたよ」


「兄貴に少しでも追いつけるように、がんばってますぜ! ポーション代もいつかきっと返します!」


 ユーヤが元気よくそう言う。

 死にかけの彼にポーションを迷いなく使ってからというもの、彼には慕われている。


 ポーション代を返してもらえれば、シルヴィの購入代金の分割払いも少し楽になる。

 彼は初級冒険者としてあまり余裕がないはずだが、俺は俺でさほど余裕がない。

 彼の言う通り、いつかは返してもらえるとありがたいところだ。


 俺、シルヴィ、ユヅキ、ユーヤ、それに他の3人。

 みんなで、ここ最近の情報交換がてら雑談をする。

 そこへ、また新たな者が現れた。


「おいおい。駆け出しのヒヨッコどもが雁首揃えて、何やってんだあ?」


「ザコはザコ同士、仲がいいようだな。ギャハハハハ!」


 チンピラ2人に絡まれた。

 ……ではなくて。


「アーノルドさん。レオンさん。久しぶりだな」


 俺はそうあいさつをする。

 彼らは見かけも口調もチンピラだ。

 しかし、実際のところはそう悪い人でもない。


 俺が冒険者に登録した初日には、冒険者ギルドの修練場でいろいろと指導をしてくれた。

 受付嬢のセリアの情報によれば、結婚して子どももいるらしい。


「お、お久しぶりです。先輩方」


「お久しぶりです!」


 ユヅキとユーヤがそうあいさつをする。

 彼女たちも、アーノルドやレオンと面識があったようだ。

 ひょっとすると、駆け出し冒険者全員に声を掛けて面倒を見ているのか?

 なかなかの物好きだな。


「おう。コウタもユヅキもユーヤも、順調みたいだな。……ん? 知らない嬢ちゃんがいるな」


「ああ。彼女はシルヴィ。俺の新しいパーティメンバーだ」


 俺が彼らに指導してもらった日には、まだシルヴィは冒険者登録をしていなかった。

 彼女が冒険者登録をしてからは、彼らと会う機会はなかった。


「白狼族の嬢ちゃんか。鍛えれば、いい戦力になるだろう。ギャハハハハ!」


 レオンがそう言う。

 希少種族の白狼族は、一部では有名だが、基本的に知名度はあまりない。

 白狼族を知っているとは、レオンの見識もなかなかのものだ。


「よし。新人もいることだし、せっかくだから久々に稽古をつけてやるぜ」


「アーノルド兄貴が稽古をつけてくださる! 光栄に思え。ギャハハハハ!」


「よろしくお願いしよう。シルヴィもそれでいいな?」


「はい! よろしくお願いします!」


 俺はあれからずいぶんとレベルが上がっている。

 シルヴィは、初めての稽古となる。

 いろいろと学ぶことも多いはずだ。


「ぼ、僕もよろしくお願いします」


「俺もがんばるぜ!」


 もちろん、ユヅキやユーヤ、それに他の3人も稽古に参加である。

 俺たちは、全員でギルドの修練場に向かう。


 修練場内に、今は人がいなかった。

 俺たちの貸し切りである。


「さあ、まずは今の力を見せてみな。まずは、コウタからだ。好きに攻撃してきな」


「おう」


 俺は前に出る。


「鮮やかなる剣の神よ。我が剣技に奇跡を与え給え。俊敏なる一閃。ラッシュ」


 俺はそう唱えて、スキル『ラッシュ』を発動させる。

 もうスピードで標的に接近し、重い一撃を入れるスキルだ。


 ガンッ!

 俺の鋭い一撃は、アーノルドの鋼の肉体によって遮られた。


「相変わらず、見事な『鉄心』だ」


 格闘家のアクティブスキルのうちの1つ、『鉄心』。

 体を硬化させて相手の攻撃を防ぐスキルだ。


「おうよ。しかし、コウタは2つのジョブを持っているんだったな。風魔法だけじゃなくて、剣士のジョブもしっかりと鍛えているようだな。さすがだぜ」


 2つのジョブを持っている者は、この世界ではめずらしい。

 その上、2つのジョブをきちんとバランスよく伸ばす者はさらに少ないのだろう。

 得意分野をガンガン伸ばしていきたい者も多いのだ。


 さらにその後、俺の風魔法、シルヴィの氷魔法と獣戦士としての実力を見てもらった。

 シルヴィの氷魔法はやはりめずらしいそうで、アーノルドもレオンも驚いていた。


「い、いくね。せぃっ!」


「おらあ!」


 そして、ユヅキやユーヤの稽古も行われている。

 彼女たちは、全員が獣剣士である。

 基本的には似たような戦い方をする。

 ユヅキが双剣で、ユーヤがオーソドックスな剣という違いはあるが。


 茶犬族の彼女たちは、高い土魔法使いとしての適正がある。

 条件さえ満たせば、土魔法使いとしても期待できるだろう。


 土魔法使いのジョブは、風魔法使いや氷魔法使いと同様に裏技じみた取得方法がある。

 俺が彼女たちにそれを伝えるのはありだ。


 しかし、少しだけリスクがある。

 もしそれで取得できなかったら、俺が彼女たちに変な目で見られるだろう。


 無事に取得できたとして、他の冒険者たちに噂がどんどん広まる可能性がある。

 裏技じみた取得方法を教えた大元が俺だとバレれば、ひと悶着あるかもしれない。

 まだ俺の戦闘能力が不十分なうちは、裏技じみたジョブの取得方法は秘匿しておいたほうがよさそうか。

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