22話 スメリーモンキー撃破!
スメリーモンキーという中級の魔物と対峙しているところだ。
こいつの特徴は、悪臭。
白狼族のシルヴィや、茶犬族のユヅキやユーヤたちには相性が悪い相手だ。
俺が1人で戦おう。
臭いのはガマンだ!
「揺蕩う風の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。風の刃を生み出し、我が眼前の敵を切り裂け。ウインドカッター!」
ザシュッ!
ザシュザシュッ!
風の刃が木の上にいるスメリーモンキーを襲う。
「キキィッ!?」
スメリーモンキーの体が切り刻まれていく。
ゴブリンやホーンラビットとは異なり、一撃や二撃で倒せるような魔物ではない。
保有している魔力量が多いため、やや効きが悪いのだ。
また、単純に体のサイズが大きめだという事情もある。
中級の中では戦闘能力は控えめとはいっても、やはり中級は中級なのだ。
「順調だな。あとは逃げられないようにさえ気をつけておけばいい。……ん?」
俺は一瞬油断していた。
ガパッ。
スメリーモンキーが口を大きく開ける。
ヒュオッ!
口の中から謎の塊を飛ばしてきた。
強……!
速…
避……
無理!!
受け止める
無事で!?
出来る!?
否
死
白の賢人!……を発動したいところだが、俺にそんな能力はない。
走馬灯のように、記憶が蘇る。
子どもの頃に遊園地で遊んだこと、社畜として長時間労働を強いられていたこと。
そして、この世界でシルヴィという美少女奴隷とともに冒険者活動を始めたこと。
いや、走馬灯を見ている場合じゃない。
現実に戻ろう。
このスメリーモンキーには、異臭を放つ半液体状の物体を口から飛ばしてくる攻撃方法があるのだ。
要するに、ゲロといってもいい。
俺は中級の魔物と出会えた喜びと、この異臭から早く開放されたい気持ちから、それを忘れていた。
スメリーモンキーのゲロが俺に近づいてくる。
時間がゆっくりと流れているように感じる。
これはもう避けられない。
まあ、しょせんはただのゲロだ。
MSCと同じなら、大した攻撃力は持っていないはず。
ひどい臭いに悩まされることになるだろうが、死ぬことはない。
内心は死ぬほど嫌だけど、仕方ない。
仕方ないんだ。
諦めてゲロまみれになることを覚悟する。
「コウタの兄貴! 危ねェ!」
ギリギリのタイミングで、ユーヤが俺の前に飛び出してきた。
人間バリアとなり、俺を守ってくれるのか!
バシャーン!
ユーヤがスメリーモンキーのゲロを全身で受け止める。
俺も若干の余波はくらったが、まともにくらったことを思えばマシだ。
「ぐ、ぐおおおぉ……」
ユーヤが悪臭にうめいている。
「よくやった、ユーヤ。お前の働きはムダにはせん」
俺はスメリーモンキーをにらむ。
やつは大技を放った反動で、動きが鈍っている。
「揺蕩う風の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。風の刃を生み出し、我が眼前の敵を切り裂け。ウインドカッター!」
ザシュッ!
ザシュザシュッ!
「キ? キキィーッ!」
風の刃により、スメリーモンキーに着実にダメージを与えていく。
既に、致死レベルのキズを負わせている。
あとは、逃げられないように……。
「揺蕩う風の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。風の塊を撃ち出し、我が眼前の敵を弾き飛ばせ。エアバースト!」
ドンッ!
空気の塊がスメリーモンキーを襲う。
やつは大きく後ろにのけぞり、木から落下する。
「鮮やかなる剣の神よ。我が剣技に奇跡を与え給え。俊敏なる一閃。ラッシュ」
そこに、俺の剣術によるすばやい追撃である。
先ほどのレベルアップで『腕力強化』も取得しているし、威力は上がっている。
「キ、キキィ……」
スメリーモンキーは最期に力なくそう鳴き、虚空へと消えた。
後には魔石が残される。
これにて討伐完了だ。
俺は魔石を手に取る。
「ふむ……。いい感じの魔石だな」
ゴブリンやホーンラビットを10体以上狩ったぐらいの魔力が蓄積されている。
先ほどのポーションの出費は痛いが、フォレストゴブリン、クレイジーラビット、そしてこのスメリーモンキーの魔石があれば、赤字分もいくらか回収できるだろう。
そして、それ以上に嬉しいことがある。
ミッション
中級以上の魔物を討伐せよ。
報酬:『パーティメンバー設定』の開放、経験値(小)
このミッションが達成済みとなっている。
さっそく受け取っておく。
俺のジョブレベルも上がった。
コウタ
種族:人族
ファーストジョブ:風魔法使いレベル12
セカンドジョブ:剣士レベル11
HP:E+++
MP:D++
闘気:E+++
腕力:E++++
脚力:E++
器用:E++
システムスキル:
ジョブ設定
経験値ブースト
パーティメンバー設定
パーティメンバー経験値ブースト
アクティブスキル:
ウインドカッター
エアバースト
ラッシュ
パッシブスキル:
腕力強化
新しく得た『パーティメンバー設定』のスキルを検証したいところだが、今はそれよりも……。
「あ、兄貴ィ……。あいつは倒せたのですか? 鼻が曲がって死にそうです……。目もショボショボします……。助けてくだせェ……」
ユーヤだ。
スメリーモンキーのゲロにやられてユーヤが苦しんでいる。
倒した魔物は虚空へと消えるが、今回のように一度放たれた攻撃は消えることはない。
そのまま残される。
「う……。すまんが、俺は水魔法は使えん……。急いで川に向かうぞ! エルカ樹海を出てすぐのところに、小川がある!」
俺はそう言う。
スメリーモンキーと遭遇したのは、ちょうど狩りを切り上げて帰ろうとしていたときだ。
幸運にも、ここから小川までそう遠くない。
「ユーヤ、乗れ!」
「うう……。すみません……。兄貴ィ……」
ゲロまみれのユーヤを背中に乗せ、俺は駆け出す。
臭いが、ガマンだ。
俺は女に優しく男に厳しい自覚があるが、さすがに自分をかばって守ってくれた者に冷たくするわけにはいかない。
俺は森の中を疾走していく。
もちろん、後ろからはシルヴィやユヅキたちも付いてきている。
彼女たちはゲロをモロにはくらっていないが、若干の余波は受けていたようだ。
なかなかつらそうである。
早く小川にたどり着き、水浴びをしたい。
『大地の轟き』は全員男だし、シルヴィにさえ配慮すれば気兼ねなく水浴びができる。
水浴びさえすれば、俺のエアバーストの応用で多少の乾燥もできる。
その後、じっくりと戦果を確認することにしよう。
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