15話 シルヴィの冒険者デビュー
シルヴィの武器と防具を揃えた。
格安で武具を売ってくれたドワーフの少女ミナには、頭が上がらない。
今後安定して稼げるようになったら、彼女の店を贔屓にして恩を返していこう。
何はともあれ、シルヴィが冒険者として活動していくための準備は完了した。
さっそく、エルカ草原にまでやって来たところだ。
シルヴィの武器は、ミナから購入した短剣である。
獣戦士として、高い機動力で敵を翻弄する役割を担ってもらう。
ゆくゆくは、氷魔法使いとしての活躍にも期待したいところだ。
しかし、俺の『ジョブ設定』スキルを使っても、残念ながらシルヴィは対象者として選択肢に表示されなかった。
彼女の現在のステータスやスキルも、確認できない。
ミッションを達成して、『パーティメンバー設定』を使えるようになったら再度試してみよう。
「さて……。確か、シルヴィは狩りの経験があるのだったな?」
「はい! 氷魔法使いの適正はありませんでしたが、獣戦士の適正はありました。ホーンラビットやゴブリンであれば、村で討伐したことがあります!」
シルヴィがそう言う。
なかなか頼もしいな。
「よし。では、さっそく戦いを見せてもらおう。ちょうどあそこに、ホーンラビットがいる。1人で倒せそうか?」
「もちろんです! 任せてください!」
シルヴィがさっそく、ホーンラビットに向かっていく。
短剣でうまく牽制しつつ、巧みに攻撃を入れていく。
「これでトドメです。せいっ!」
彼女が最後に、やや大きめの一撃を入れる。
そして、ホーンラビットは虚空に消えた。
後には魔石が残される。
これにて討伐完了だ。
「ど、どうでしょうか……?」
「うむ。期待通り……いや、期待以上の戦闘能力だ。いいぞ!」
俺はそう言う。
ホーンラビットはまったく問題なさそうだ。
剣士単体としての俺と同じくらいの戦闘能力と思われる。
パーティとしては、確かな安定感の向上に繋がるだろう。
「続けて、ゴブリンを討伐してみよう。あそこに、単独のゴブリンがいるな」
ゴブリンは、群れで行動する魔物だ。
とはいえ絶対ではなく、単独や数体以下で行動するゴブリンも存在する。
今までの俺は、2体以下のゴブリンだけを相手にしてきた。
ルモンドの馬車を助けたときには10体以上のゴブリンを掃討したが、あれは馬車という囮がある状態で、遠くから不意打ちして畳み掛けたから可能だった芸当である。
完全なソロで3体以上のゴブリンを相手にするのは、少しリスクがある。
シルヴィが加入したことにより、相手にできるゴブリンの数は増えるだろう。
今までは2体までにしていたが、4~5体ぐらいまでは相手にできるかもしれない。
とはいえ、いきなりぶっつけ本番も怖い。
とりあえずは単独のゴブリン相手に、シルヴィの実力を見せてもらうことにする。
「いきます!」
シルヴィがゴブリンに向けて駆け出す。
「せいっ!」
「ぎいっ!」
シルヴィの攻撃に、ゴブリンが対抗する。
ホーンラビットもゴブリンも低級の魔物だが、低級同士を比べると少しゴブリンのほうが強い。
今のシルヴィでは、時間をかければ倒せるが、一蹴はできないぐらいの強さだ。
「シルヴィ。俺が風魔法を使うから、タイミングを見て離脱してくれ!」
「承知しました!」
シルヴィが力強くそう返事をする。
「揺蕩う風の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。風の刃を生み出し、我が眼前の敵を切り裂け」
俺は風魔法の詠唱を進めていく。
もう少しで詠唱が終わるというタイミングで、ちゃんとシルヴィは離脱してくれた。
詠唱の文言なども、事前に打ち合わせ済みなのだ。
俺はシルヴィが離脱したことを確認して、風魔法の最後の一節を唱える。
「ウインドカッター!!!」
ザシュッ!
風の刃がゴブリンを襲う。
シルヴィから受けていたダメージに、このダメージがとどめとなって、ゴブリンは虚空に消えた。
後には魔石が残される。
「よしよし。ゴブリン相手にも単独で勝てそうだったし、俺との連携もいい感じだな」
「うまくできるか不安でしたが、何とかやっていけそうです! ご主人様のお役に立てるよう、がんばっていきますね!」
シルヴィが元気よくそう言う。
彼女がいれば、エルカ草原での狩りの効率は増すだろうし、もっと強い魔物や魔獣にも挑める。
彼女を購入したかいがあった。
とはいえ、今の俺とシルヴィだけで中級の魔物に挑むのは少し心もとない。
もう少しレベルを上げておきたいところだ。
ここで、今の俺のステータスを再確認しておこう。
コウタ
種族:人族
ファーストジョブ:風魔法使いレベル8
セカンドジョブ:剣士レベル6
HP:E+
MP:D
闘気:E+
腕力:E+++
脚力:E+
器用:E+
システムスキル:
ジョブ設定
経験値ブースト
アクティブスキル:
ウインドカッター
ラッシュ
MSCと同じ仕様であれば、風魔法使いレベル10になったときに新しい魔法が使えるようになる。
ひとまず、それまではこのエルカ草原でレベリングをするのがよさそうか。
「シルヴィ。今の獣戦士のジョブレベルがいくつかわかるか?」
「ええっと。村で奴隷として売られる直前に確認したときには、獣戦士レベル4でした」
シルヴィがそう答える。
確かに、事前にルモンドに確認していたレベルと同じだ。
剣士としての俺よりも少し劣るぐらいの戦闘能力である。
この世界では、自身のレベルを確認する機会は限られる。
神殿でお布施をして神官に見てもらうか、少し値段の張るスクロールを使うかだ。
シルヴィは奴隷として売られる直前に確認したわけだ。
おそらく、ルモンドがお布施かスクロール代を支払ったのだろう。
ジョブレベルは、奴隷の売値に影響するだろうからな。
「ふむ……。シルヴィのレベルが5になるまでは、この草原で様子を見るか……」
俺が風魔法使いレベル10、シルヴィが獣戦士レベル5になれば、森の浅いところなどに挑んでみてもいいだろう。
キリもいいしな。
「承知しました! あれから、商館でもたまに鍛錬をしてきましたし、レベル5になる日も近いかもしれません!」
シルヴィがそう言う。
ジョブレベルを上げる近道は、魔物や魔獣を討伐することだ。
しかし、筋トレや型の稽古、対人の模擬試合などでもジョブレベルは上がる。
商館で鍛錬を積んでいたのであれば、確かに経験値は蓄積されているだろう。
彼女がレベル5になるまで、それほどかからないかもしれない。
とはいえ、俺には『経験値ブースト』の恩恵がある。
俺が風魔法使いレベル10になるのが早いか、シルヴィが獣戦士レベル5なるのが早いか。
微妙なところだ。
まあ、あれこれ考え込んでも仕方がない。
とりあえず、しばらくはこのエルカ草原で狩りをして様子を見るのがいいだろう。
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