14話 シルヴィの冒険者登録/ドワーフの鍛冶師ミナ
シルヴィを購入した翌日になった。
昨日は『料亭ハーゼ』でリンの料理をたくさん食べたし、エネルギーは万全だ。
活力に満ちている。
「さて……。今日は、シルヴィの冒険者登録をしようか」
「承知しました! がんばります!」
シルヴィが元気よくそう返事をする。
昨日の食事以降、ずっと元気だ。
やはり、こちらが彼女の素のようだな。
ずっとおどおどされるよりはこちらのほうがいい。
シルヴィとともに冒険者ギルドに向かう。
中に入り、受付嬢のセリアに話しかける。
海猫族の、青髪の女性だ。
「よう。セリアちゃん。元気だったか?」
「あら、コウタさん。私は元気ですにゃ。……ええっと、そちらの方は?」
セリアが、俺の横に立つシルヴィを見てそう問う。
「彼女はシルヴィ。俺のパーティメンバーとして活動してもらうつもりだ。今日は、彼女の冒険者登録をしにきた」
「シルヴィです。がんばります!」
彼女が握りこぶしをつくり、意気込む。
「そうでしたか。有望ルーキーであるコウタさんにパーティメンバーができれば、さらなるご活躍が期待できそうですにゃ。それでは、こちらの用紙に記入してくださいにゃ」
セリアがそう言って、用紙を差し出してくる。
シルヴィは文字を書けないそうなので、俺が代筆する。
名前:シルヴィ
ジョブ:獣戦士
用紙をセリアに渡す。
彼女が内容を確認する。
「ジョブは獣戦士ですかにゃ。パーティとしての安定感が増しそうですにゃ」
「ああ。しばらくはエルカ草原でホーンラビットやゴブリンを相手に様子を見るが、慣れてくれば森にも行ってみようかと思っている」
俺はそう言う。
セリアはそれを聞きつつも、ギルドカード発行のための処理は進めてくれている。
「エルカ樹海にゃ? あまり深くまで入らなければ、コウタさんならだいじょうぶでしょうが……。間違っても、深くまでは入らないでくださいにゃ」
「深くまで入るとどうなるんだ?」
「迷って帰ってこれなくなるかもしれませんにゃ。エルカ樹海は、木が生い茂っている上に魔力が濃すぎて、方向を見失いやすいのですにゃ。その上、エルカ草原と比べて強力な魔物や魔獣がいますのにゃ」
セリアがそう言う。
樹海で迷子になるのは怖いな。
深くまで入るのは、何らかのマッピング能力を得てからのほうがよさそうだ。
魔物や魔獣のほうは、工夫次第で何とかなるかもしれない。
俺にはいろいろなチートがあるからな。
「わかった。気をつけるとしよう。まあ当面は、エルカ草原だがな」
「それがいいですにゃ。安全第一で活動なさってくださいにゃ」
「私も精一杯がんばります!」
そんな感じで、シルヴィの冒険者登録は無事に終了した。
俺とシルヴィはセリアに別れを告げ、冒険者ギルドを出る。
「次は武器と防具の調達だな。ところで、シルヴィは獣戦士としてどんな武器を使うんだ?」
「できれば、短剣がいいですね。素早さを活かして、チクチク攻撃する感じです!」
「なるほど。短剣なら、なんとか買えるか……。さっそく武器屋に行ってみよう」
大剣よりも、短剣のほうが少し安い傾向がある。
単純にサイズが小さい分、材料費や加工費が抑えられるのだろう。
もちろん、例外もあるが。
俺の装備は、ミッション報酬から得たものである。
この世界で武器や防具を購入したことはないが、この1週間でよさそうな店の目星はつけている。
俺とシルヴィは、町を進んでいく。
そして、とある武具屋に着いた。
隣に鍛冶場が隣接している、本格的な店だ。
「おおい! ミナはいるか?」
俺はそう叫ぶ。
そして、中から1人の少女が出てきた。
「はーい、なのです」
赤髪の小さな少女、ミナだ。
身長140センチぐらいであるが、年齢は10代後半。
ドワーフという種族の特性上、身長が伸びづらくやや幼い外見をしているのである。
「よう。元気そうだな」
彼女は、今日も鍛冶仕事に精を出していたようだ。
体中が汗まみれである。
むわっ。
彼女から、汗の匂いが漂ってくる。
普通の人の汗の匂いは不快なだけであるが、彼女のはどことなくいい匂いな気がする。
それに、汗によって半透明になっている胸元も魅力的だ。
この世界には下着が存在する。
彼女は、服越しにブラジャーが透けて見えている。
むほほ。
「コウタくんも元気そうなのです。それで、今日はどうしたのです?」
ミナがそう問う。
俺はこの武具屋に目星をつけてから、武具の手入れなどを相談したことがある。
その一方で、現在は既にそれなりの剣と防具を持っており、新規の武具を購入する予定がないことも伝えている。
「今日は、こっちのシルヴィの武器と防具を買いにきた」
「シルヴィです! よろしくお願いします!」
シルヴィが元気よくあいさつをする。
「ボクはミナなのです。シルヴィさんは、もしかして白狼族なのです?」
「そうだ。ひと目見てわかるものなのか?」
確かに、銀色に近い白髪で、狼耳という外見は特徴的だが。
「普通の人は、そもそも白狼族という種族自体をあまり知らないと思うのです。でも、鍛冶師にとってはお客さんの種族やジョブは大切な情報なので、知っている人も多いのです。白狼族の特徴を知ってさえすれば、気づくのは簡単なのです」
ミナがそう説明する。
職業柄の話か。
シルヴィの白狼族は希少種族ではあるが、別段隠すほどのことでもない。
この国では奴隷狩りは禁止されているし、誘拐などももちろん犯罪行為だ。
白狼族は一般種族の奴隷と比べて少し高価だが、ケタ違いというほどでもない。
町中で奴隷狩りに狙われるリスクは低いと考えていいだろう。
「なるほどな。それで、白狼族に合う武器と防具を用意してもらえるか?」
「了解なのです。白狼族は、『氷魔法使い』と『獣戦士』に適正がある種族なのです。それを踏まえると……」
ミナが武器と防具の選定を始める。
「ああ、いや……。シルヴィは氷魔法使いの適正がないそうなんだ。考えるのは、獣戦士だけでいい。あと、悪いが予算もそれほどなくてな……。今後も贔屓にするから、何とかこれぐらいの予算でお願いしたい」
俺はミナに予算を伝える。
「う……。コウタくんの懐事情は渋そうなのです。でも、先行投資だと思ってなんとか出血大サービスをするのです。裏切って他の武具屋に切り替えたりしたら、化けて出てやるのです」
「すまんな。乗り替えたりはしないから、よろしく頼む」
ミナが武具を見繕っていく。
この武具屋ではオーダーメイドもできるが、少し割高となる。
予算もあまりないし、数打ちの既製品の中でシルヴィに合ったものを選んでもらう感じだ。
「ええっと。確かこの辺に収納していたはずなのです……」
ミナがそう言って、棚の下段の奥を覗き込んでいる。
体勢は四つん這いだ。
彼女のズボンが、汗でぴっちりとお尻に張り付いている。
パンツのラインがくっきりと見えている。
俺は心の中でガッツポーズをしつつ、おとなしく待つ。
しばらくして、ミナがいくつかの短剣と防具を用意してくれた。
彼女がそれらを俺とシルヴィの前に並べる。
「このあたりがいいと思うのです。一度試してみてくださいなのです」
ミナの言葉に従い、シルヴィが短剣を素振りしたり、防具を試着したりする。
その中で、特に感触のよいものを選び終えたようだ。
「この短剣と防具が合っている気がします!」
「そうか。確かに、いい感じにフィットしているな」
「いいと思うのです。その組み合わせなら、値段はこれぐらいなのです」
ミナが俺に値段を伝えてくる。
一般的には間違いなく格安だが、今の俺には少し厳しい額だ。
「う……。なんとか、もう一声お願いできないか……?」
「うーん……。じゃあ、本当に特別大サービスで、もう少し割引するのです。コウタくんだから特別なのですよ?」
「ありがとう! この恩は、必ず返す! 冒険者として大成してな」
俺はそう言う。
俺のチートを活かせば冒険者として稼いでいくことも可能だろう。
ミナから受けた恩を返すために、今後もがんばっていかないとな。
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