エリー.ファー

 地球の王が死ぬらしい。

 不治の病で、延命治療くらいしかできることはないらしい。

 もしかしたら、何か治療法があるかもしれない。などとサービスで言っておくくらいしかないが、周りの人間は動かざるを得ない。王の命を少しでも長く、王の人生を少しでも長く、王の姿を少しでも長く。

 そうせざるを得ない。

「地球の株はどうなる」

 そんな質問、そんな疑問が飛び交うのは当然のことである。

 天の川銀河に所属する地球という星は、当然ながら天の川銀河の法律を守って活動しなければならない。

 こんな一文がある。

 天の川銀河に所属するすべての星は、株式会社のような形態をとらなければならない。

 地球によくある株式会社。株を買った人たちが、株主総会というところで社長やら経営陣やらに怒声を浴びせてすっきりして帰り、社長たちは頭を下げながら机の下で中指を立てるという一大イベント。そんなものがごちゃ混ぜになって蠢く、株式会社。

 というわけで。

 地球株式会社の株は、天の川銀河に所属する星々が持っているということになる。

 さて。

 地球の王が死ぬということは、当然株価は下がるだろう。こうなると、地球に悪影響が出てしまう。できる限り、長く生きてもらわなければならない。

 もちろん、命あるもの必ず死を避けることはできない。どうにかして、死にたくないと逃げ回った権力者は星の数ほどいたそうだが、すべて綺麗に血まみれの流れ星になったわけである。

 夢が潰えることはないが、叶うこともない。

 皆に平等に訪れるフラグ管理も必要のない、死。

 こんな意見が出る。

「もしかしたら、王はもう殺して欲しいと思っているのではないか」

 王は喋ることができず、その意思を確かめることはできない。もっと言うのであれば、王が殺して欲しい死にたいと言ったところで、死んだ後の影響を受けるのは生きている側である。この際、王が何を思っていようが知ったことではない。黙って死んでも喚いて死んでも結論は同じである。

 優しさは皆無である。

 打算に組み込まれた情熱だけが暴走する時間が王の周りで加速する。

 しかし。

「本当に王が死んだら、株価は下がるのだろうか」

 それは盲点だった。

 この王は素晴らしい政策を打ち出したことはある。ホームレスたちの就職先を作り出し社会復帰に尽力したり、障がいを持って生まれた子どもたちが健やかに生活できるような社会を見事に作り上げたのだ。けれど、その裏でアフリカあたりで民族浄化やら、アメリカあたりで核爆弾を落としたり、過去に地球に蔓延した凶悪なウイルスの開発に着手したという噂もあった。

 良い噂はある。

 しかし。

 悪い噂もある。

 実際、良い人でもあり悪い人でもあったのだろう。

 これを天の川銀河の星々がどのように評価するのか。

 そうこうしているうちに王が死んだ。

 死んだ瞬間に亡骸に飛びつく者などいない。まずは株価である。

「あ、下がってる」

 そう、王の死によって地球の株価は下がったのだ。

 あぁ。やっぱり私たちの住んでいる地球の王は、良い王だったんだ。

 株価が下がったことで、生活に悪影響はあるかもしれないが仕方ない。

 皆、少しばかり安堵したのである。




「しかし、大変でしたね」

「あぁ、全くだ。色々な星に連絡をして骨が折れたよ」

「全くですよ。あんなお願い、他の星々に初めてしましたよ。死んだ後も地球の王の威厳を保ちたいので、王が死んだ瞬間に地球の株を少しだけ売って株価を下げてくれませんか、なんて」

「株価は大切だからな」

「あーあ。誰にも迷惑をかけずにさっさと死ぬことが、何でできないんですかねえ」

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