第35話 奇跡の生還犬

 わたしが住んでいる家から駅までの間に、結構交通量の多い道路がある。

 駅へ向かうには、絶対にその道路を渡る必要がある。

 もちろん、信号はあるので、信号さえ守れば何の怖い事も無い。


 むかし。

 うちにいたワンコの話。

 お散歩も家族以外の人間も他のワンコも嫌いで、ボール投げ遊びだけは好きだったコ。

 駅の近くにフェンスに囲まれたグランドがあるため、朝お散歩代わりに父の出勤に合わせて母が一緒にワンコを連れて行き、ボール投げ遊びをしていた時のこと。

(ボールを投げるのは、母ではなく、父)

 ちょうどリードを離してワンコがボールの落下地点と予測した場所まで離れた時。

 知り合いがワンコを見つけて友達と一緒にやってきた。

 うちのワンコは、その知り合いの事は好きだったが、知り合いの友達は”初めまして”の人。

 怖くなってしまったのか、いきなりその場から家に向かって走り出してしまった。


 運悪く、ボール投げ遊びの途中だったため、リードは外してしまっている。

 家までの間には、あの交通量の多い道路もある。


 父も母も、最悪の事態を想定しながら、懸命にワンコを追いかけたらしい。

 だが、小さいワンコとは言え、すばしっこさはピカイチ。

 到底、人間など追いつけるはずもなく。


 結果。


 1人で戻り、家の前にチョコンと座って、キョトンとした顔をしていたらしい(^^;)


 両親が道路に辿り着いた時、信号は赤⇒青に変わったところ。

 ワンコは一体どうやって、あの交通量の多い道路を渡ったのか。

 今考えただけでもゾッとするが・・・・

 ワンコの無事もだけど、チョロチョロと道路に飛び出した犬を避けようとして、多重事故が発生する可能性だって、あったはずだ。

 本当に良かった、何もなくて…


 それからしばらくの間、ワンコは「奇跡の生還犬」と呼ばれた(笑)

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