第1話 乾

「おい、才谷起きろ!」


その声で目が覚める。顔を上げるとそこには怒ったような呆れたような顔をしている乾がいた。俺は大和北高校に通う才谷龍馬だ。そんでこいつ、乾は『生物史』の担当教諭。この教科が嫌いで寝ている俺を毎日起こしてくる。


「はーい。起きてるよ、センセ」


と気のない返事をしてとりあえず起きるポーズをした。全く、こんな授業受けてられるかっての。

昼休みになりゲームをしながら昼飯を食っていると誰かが俺を呼ぶ声がした。


「龍馬、また乾先生に怒られてたね。」


「うっせぇな、加尾ほっとけよ」


この口うるさい女は楢崎加尾、母親のようにお節介だが一応彼女だ。


「“そんなに眠いなら、ゲームなんかしてないで今寝なさい“っていつも言ってるでしょ?」


「“眠いからじゃなくてあの授業がつまらないから寝てるんだ”っていつも言ってんだろ。あー、乾諸共消えてくんねぇかなぁ、生物史」


生物史とは2300年辺りで導入された新教科で人間の活動によって自然から絶滅した生物について年代順に覚えさせられる教科だ。自分たちで絶滅させといてそいつらを学ぼうだなんて意味がわからない。

翌朝担任から、乾が体調を崩して今日は休みになる、という連絡を聞いた。ラッキーだと思った。でも翌日もその翌日も乾は学校に来なかった。

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