第26話 軋轢

 昼食の時間が終わり、六時限目の授業も終えた俺達Dクラスはホームルームの時間を迎える。

 ホームルームは朝比奈先生の遅刻により、Dクラスだけ少々遅れ気味だ。その間にも他のクラスはホームルームを終えて、廊下でおしゃべりをしながら時間を費したり、帰路に立とうとしている人もいる。

 その中で、嫌でも目立つじゃがいもみたいな頭をした、堅いのいい男三人組がこちらを見張っていた。臭男達だ。

 そのことに気づいた俺だったが、あえて気づいていないフリをすることに。


「それではみなさん、気をつけて帰るようにね!」


 朝比奈先生の話が終わると、クラス内の生徒はすぐに教室を出る。それに紛れ込んで朝比奈先生も教室を出るのだが、一瞬だけ俺の方を見た気がした。


(どうやら、夜桜先生は本当に伝えたようだな)


 計画は順調に進んでいる。––––––が、あと一点だけ解決しなければならないことがある。

 その糸口を見つけ出すためにも、俺はある人に会わなければならない。会うのなら一日でも早い方がいい。ホームルームの遅れがあるため、俺はすぐに教室を出た。

 臭男達の前を通り過ぎる際、気持ち悪いほどにガン見された気がするが、これもまた気づかないフリをして先を進む。


「おーい! 赤坂さんに黒崎さーん! 一緒に帰ろうぜー!」


 やけにボリュームのある掛け声。俺に聞こえるようわざと大きな声を出したのだろう。それは周囲に仲が良い関係だと匂わせ、アリアと黒崎は自分達のものだと警告させる目的もあるに違いない。


「うるさい奴らだ。周りのことも考えろ」


 臭男の大声により周囲にいた人達はビクッと体を跳ね上がらせ、驚いた様子をしていた。険しい表情からして『うっせぇな』と言いたげそうだ。

 心の中で邪悪なわだかまりが現れる。胸の中でモヤモヤとした落ち着かない動悸を覚えながら階段を登る。目的地である三年生の教室へとたどり着いた時、廊下には今から帰路に立とうとしていた佐藤先輩の姿が。


「おや? これは珍しい。僕に何か用かい?」

「間に合ってよかった。ちょっとお時間頂けませんか? 先輩の妹について聞きたいことがありますので」

「……いいよ。この後は特に用事はないからね。どこで話す?」

「そうですね。じゃあこの前と同じく、学園の中庭でどうですか?」

「分かった」


 俺は佐藤先輩と一緒にいつもの場所へと向かった。



     ★



 中庭に着いた俺達はベンチに腰をおろす。放課後だからか、周りに人はいない。聞こえてくるのは前と同じように噴水の音だけ。


「懐かしいな。前にもここで君と話をしたっけな」

「そうですね」

「黒崎さんは、上手くやったようだね」

「……なんでそれを知っているんですか?」

「本人から聞いたからだよ」

「本人? 黒崎からってことですか?」

「ああ。一昨日に向こうから電話が来てね」


 そう言うと、佐藤先輩はスマホの画面をこちらに向けてくる。画面には連絡用のチャットアプリが開いており、そこには一昨日の夜に黒崎と通話した履歴が表示されていた。

 一昨日ということは、黒崎との一件が終えた翌週の月曜日だ。


「黒崎さんは深く反省していたよ。今までのことごめんってね」

「……そうですか」


 黒崎と佐藤先輩はアリアを陥れるための協力関係であった。それも主導権を黒崎が握る形で。

 黒崎はお金を渡すのと引き換えに、佐藤先輩にあらゆる手段を行うよう指示していた。それはアリアにトラウマを植え付け、新たな学園生活での希望を奪うことが目的だった。だが今はそれも解決し、仲の良い関係へと生まれ変わった。黒崎は屋上で本当はそんなことをしても意味がないことを頭の中では分かっていた。でも理性はそれを許してくれなかった。だから黒崎は自分の犯してしまった罪を認め、巻き込んでしまった人に最低限ちゃんと謝ろうとけじめをつけたのだ。そのけじめはきっと、アリアにも伝えたはずだ。でなければ、二人の絆があそこまで深まったりしない。


「ということは、先輩との協力関係は破棄されたということですかね?」

「そうなるね」

「良かったですね。肩の荷が降りて。本当はやりたくなかったんですもんね」

「そうだね。当時はお金に目がくらんで欲望のままに動いていたけど、今となっては愚かだったと思うよ」


 俺は、ふと気づく。


「そういえば、先輩はアリアとはどうなったんですか?」


 アリアが廃虚ビルで襲われた以降、佐藤先輩とアリアの間でどうなったのかは知らない。黒崎が佐藤先輩に謝ったように、佐藤先輩もアリアに何か謝罪の一言でも交わしたのか気になった。黒崎とアリアが和解しても、アリアがまだ佐藤先輩に対して怒りや憎しみを感じていたら、それは真の意味で問題は解決していない。

 佐藤先輩は気まずそうに雰囲気を醸し出してから口を開いた。


「……事件以降、一度も顔すら合わせていないよ。彼女にとって僕はトラウマ的存在に映っているだろうからね。ちゃんと謝りたい気持ちがある反面、彼女の前には姿を現さない方が賢明だとも思っているよ」


 佐藤先輩はやや伏し目につぶやく。俺は佐藤先輩の言葉を聞いて、ちゃんと罪の意識を感じているんだなと改めて実感した。あの時の土下座は偽りなんかじゃなかったのだと。


「先輩の気持ち、よく分かります」


 もし俺が佐藤先輩の立場だったら、きっとそういう葛藤をすると思う。

 嫌な思い出は時間と共に薄れ、やがて意識から消える。そんな時、もし自分にとって嫌悪感を抱いている人が目の前に現れたら、また嫌な意識は蘇る。それをするぐらいであれば、今後一切姿を現さず、何事もなかったかのように時が過ぎてしまえばいいのではないかと、そう思うのだ。


「でも、俺はちゃんと謝るべきだと思います」


 俺は遠くに映る街を見つめながら言う。


「少しでも相手に伝えたい気持ちがあるのなら、絶対に言うべきです。きっと、人生のどこかで後悔することになりますから」


 当時好きだった人に、想いを伝えなかったように……。

 佐藤先輩は俺の横顔を見て呆けていたが、すぐに納得したような素振りに変えた。


「そうだね。後悔しないためにも、ちゃんと謝るよ」


 佐藤先輩の決意を聞いたところで、区切りがいいと思った俺は本題に移った。


「今日先輩にお会いしたかったのは、聞きたいこととお願いごとが一つあるからなんです」


 俺は佐藤先輩の目を見て言う。


「それは佐藤先輩の妹、白雪についてです」

「……」

「白雪とはここ最近、ある事件がきっかけで絡むようになりましてね。俺が襲われるといつも身を呈して助けてくれるんですよ。土下座の一件以降からして、恩返しのつもりなのだろうけど、どうも過剰防衛な気もするんですよね」


 守ろうとしてくれるのはとてもありがたい。でも、白雪は本来誰かを守れるような体つきとはいえない。片手で簡単に吹き飛びそうなほどに小さい体で、誰がみても喧嘩には不向きだ。臭男達もそれを分かって、あの時爆笑しながら馬鹿にしていた。

 それでも立ち向かおうとするのは恩人である俺を守ろうとする使命感よりも、別の意味が隠されているとしか思えないのだ。


「内容から察するに、君いじめられているのかい?」

「……まぁ、そんなところですかね。そこでいつも白雪が助けてくれるって感じです」

「……そうか」

「なにか知っていそうですね」

「あまり良い話じゃないよ。家族絡みの話だからね」

「両親が他界したとか?」

「! ……どうしてそれを君が?」

「白雪から聞いたんです」

「あいつが……!?」


 驚きの表情を浮かべる佐藤先輩。やはり、何かしがらみがあるようだ。


「教えてくれませんか、佐藤先輩。白雪の今後の人生に関わることです」


 佐藤先輩は気付いている。何故俺が佐藤先輩に会いに来たのかを。それは黒崎の件を思い出せばすぐに分かること。


「ああ。分かった」


 だからか、佐藤先輩は迷うことなく承諾してくれた。



     ★



「あいつがおかしくなったのは両親が亡くなってからだ」


 佐藤先輩は遠くを見つめながら語り出す。俺はあらかじめ、白雪から聞いた家庭の事情については話しておいた。佐藤先輩が家庭を養うためにモデルで稼いでいたことを。女癖が悪くなっていったことについてはあえて伏せおていた。


「あいつの話によると、両親が亡くなったことをきっかけに学校では注目を浴びるようになったらしい。おそらく両親を亡くした情報が近所にも広まって、それがクラスメイトにも伝わったんだろう」


 親というのは近所付き合いを大事にしている傾向が高いうえ、衝撃的な情報を得た場合すぐに口走ろうとする。それは誰かに話したいという欲求に駆られることによるものが原因で、人間誰しにもあるシステムだ。そこから親経由で白雪のクラスメイトに伝わってしまった。


「周りからはよく哀れみの声をかけられたそうだ。亡くなった当時は口を開かないほどに落ち込んでいたから心配されていたんだろう。一緒に住んでいた僕でもそう思ったよ」


 俺が知っている白雪はそんなに口を開くようなタイプには見えないが、佐藤先輩の言動からして昔はそうでもなかったのかもしれない。


「そんなある日、事件は起こったんだ」




 白雪がまだ小学四年生の頃、ある放課後の時だ。


『おーい佐藤』


 私と同学年である男子三人組に後ろから声をかけられる。


『……なに?』


 振り向いた時、男子はニヤニヤと憎たらしい顔を浮かべていた。


『お前、両親が死んだってホントかよぉ!?』

『ッ!!』


 予想もしてなかったいきなりのセリフに私は目を見開いて驚く。その反応を見て、男三人同士は何故か顔を合わせながら戸惑い始める。


『うわっ、この反応……マジなんじゃね?』

『両親が死んだとか嘘だと思ったんだけどな』

『いやでもさ、両親が死んだとか普通嘘つくか?』

『おい。お前らさっきから何が言いたいんだ……』


 ここ最近の私は両親が亡くなったことがきっかけで、内心穏やかじゃないため怒りの沸点が低くなっている。そこに両親の死について触れるとなると、さすがに頭に血が登り始める。

 こいつらなんかに、私の気持ちなど理解できるはずなどない。そんな私に気遣いの精神の欠片もなく、男達はこちらに近づいてきて私の肩に手を置き、こんな質問をしてくる。


『ぶつちゃけ、両親なんて死んでもよくね? 家でガミガミうっせぇだけだし』

『それ分かる! 俺なんかテストの点が悪いだけでいっつも怒られるしさぁ。そんなんでキレんなよって思うわ』

『両親いない方が実は幸せだったりしてな? ストレスフリーってやつ?』


 言い終えると、私の肩に手を置いたそいつは宙を舞った。––––––なぜか。

 私が、下から顎に向けてアッパーを喰らわしたからだ。


『あぐッッ!』


 宙を舞った男は受け身も取れずに、床へと叩きつけられる。


『……テメェらと一緒にすんな。クソがッ』


 アッパーを喰らった男は殴られた際に舌を噛んでしまい、口からは血がポタポタと溢れ出ていた。


『ぐがああああああ!!』

『たけちゃん!? おいやべぇって!! 血がめっちゃ出てる! はやくティッシュ持ってこい! ティシュ!』

『お、おう……ッ!!』


 一連の騒ぎは廊下を歩いていた人にも気づかれる。


『えっ、ちょっと見てあれ……』

『うわっ、なにあれ血ぃッ!?』

『ちょっとあれヤバくない……!? 私先生呼んでくるよ!』



 その後、白雪は現場に訪れた先生によって生徒指導室に連れてかれ事情を話した。白雪は『両親のことを侮辱されたから殴った』と明かし、殴られた相手もそれを認めた。その事件は最終的にお互い様という扱いで幕を終えた。相手も言葉が悪かったし、殴った白雪も悪い、と。

 白雪はそのことに納得していない。何故、自分も反省しないといけないのか。悪いのはそいつらで、自分は行うべき制裁をしただけなのだと。

 その考えは相手も似たようなものだった。白雪の両親を侮辱した行為は認めるが、何も殴る必要はないだろと。

 事件が解決した後も、男達は白雪に対して怒りや不満を持ち続け、陰口を言うようになる。そうして相手をけなすことで自分達が上の立場にいるんだと示し、優越感に浸るためだ。


 ––––––そしてある日、事件は再演する。


「放課後、あいつは男三人に殴り合いによる決闘を申し込んだ。負けたら二度と白雪に関わるなという条件だったらしい」


 白雪はついに我慢の限界が訪れ、そういった話を持ち込んだ。言われっぱなし、やられっぱなしの自分に納得がいかなかったのだろう。口で言っても歯止めが効かないなら、前回みたいに暴力で黙らせるまで。

 ただ殴り合いといっても三対一によるものではなく、男三人のうち代表一人が白雪とタイマンする形だったらしい。白雪も女の子だ。さすがに自分一人では男三人を倒せるとは思わなかったのだろう。相手の男子も女子に負けるはずがないと勝利を確信していたため、朝飯前だと言わんばかりに余裕の笑みで条件をのんだ。

 僕は下校する際、グランドで白雪達が決闘するところを偶然遠くから目撃した。


「結果的に、白雪は負けたよ」


 どうやら白雪は一度も相手に傷を負わせることができずに、敗北したという。


「まさか、ボコボコにされたんですか!?」

「いいや、途中で僕が代わりに追い払った。さすがに妹がやられる姿を黙って見てはいられないからね」

「え、じゃあ先輩が暴力を……」

「違うよ。僕がその場に現れたら奴らは勝手に逃げていったんだ」

「あ、なるほど」


 当時佐藤先輩は小学六年生。二個上の先輩が現れるだけでその存在感には圧倒されることだろう。男達はその存在感に圧倒され、その場から逃げた。

 白雪にとって、兄の登場は救世主にも感じたことだろう。––––––だが、それは違ったようだ。


「でも、それがあいつとの軋轢を生むことになってしまう原因になるんだ」

「えっ?」


 佐藤先輩が男三人を追い払った後のこと。




 地面に尻餅をつき、悔しそうにプルプルと体を震わせながら目尻に涙を浮かべている白雪。幸い、相手がヒートアップする前に僕が追い払ったから傷はない。そのことに安心した僕は白雪の前にしゃがみ込み、同じ目線で話した。


『白雪、どうしてこんなことをしたんだ?』

『…………あいつらが、喧嘩を売ってきたから』

『……そっか。でも、見るからにお前が勝てる相手ではなかったはずだよ』

『っ』


 白雪の戦った相手は、小学生にしては体つきのいいスポーツ選手のようだった。それに比べ白雪は、身長も体格も幼い。ハンデにしては大きすぎる。


『もうこんな真似はよせ。今回は僕がたまたま近くにいたから良かったが、次はどうなるか分からない。お前の体格は喧嘩には向いていない』

『それなら、兄貴があいつらをぶっとばしてくれよッ!!』

『……それは出来ないよ』

『なんでだよ! そもそもあいつらが悪いんだぞ! 両親を馬鹿にしやがったから!! 兄貴はそれが悔しくないのかよ!?』

『悔しいさ。でも僕は、よっぽどのことじゃない限り喧嘩なんてしない』

『……なんだよ、それ……』

『……』

『両親が馬鹿にされることは、兄貴にとって大したことじゃないってことかよ!?』

『白雪……』

『ずっと馬鹿にされながら我慢しろってことかよ!』

『白雪!』

『そんなのッ! 立ち向かう勇気のないただの弱虫なだけだろぉ!』

『白雪!!』

『兄貴は、本当はッ……両親がいなくなって、実はせいせいしているんじゃ––––––』


 バチン––––––。


 乾いた音がグランドに響く。僕は、気付けば白雪の頬を強く叩いていた。叩かれた部分には痛々しい赤い跡ができている。そこに、涙が伝った。


『……クソ兄貴が……ッ』


 白雪は歯軋りを鳴らし、怒りの感情に身を任せ、走ってグランドを去って行く。その背中を呆然と見送ることしかできなかった僕はこの瞬間……妹の間に軋轢が生じたことを実感した。




「……その日から僕と白雪の間には、大きな壁ができてしまった。口もほとんど聞かない。食事も一緒に食べようとはしない。一緒に暮らしているはずなのに、まるで別々で暮らしているかのようだった」


 佐藤先輩は過去を悔やんでいるかのように寂しい目をしている。


「両親からは、いつも仲の良い兄妹だなって褒められていたのにな……。今の僕たちを見たら、きっと両親は幻滅することだろう」


 言動からして、二人は未だに仲直りを出来ていないことが分かる。


(そういえば、二人から土下座された日もあんまり口を聞いていなかったな)


 廊下で二人に土下座されたことを思い出す。あの時はそこまで気にしていなかったが、佐藤先輩はどこか居心地悪そうだったし、会話も事務的なこと以外していない。

 あの時は俺の事情も絡んでいたからそういう雰囲気ではなかったのもあるが、そもそも会う瞬間から二人の間には距離があるようにも感じた。その背景には先ほどの話が絡んでいるということか。


「仲直りは、しないんですか?」

「……君、兄妹はいるかい?」

「え? あ、はい。妹が一人いますけど……」


 質問を質問で返され、虚を突かれてしまった俺。


「君が僕の立場だったとして、同じことを言えるかい?」

「…………」


 そう言われ、俺は佐藤先輩の置かれている状況を俺と千佳に置き換えてみる。

 目の前には一切口を聞かない千佳がいて、俺と目を合わせようともしない。普段から仲の良い分、そこに亀裂が生じた時の気まずさは底知れない。仲直りしたい……そう思う気持ちはあるものの、血のつながっている相手には、変なプライドが邪魔して謝ることに抵抗が生じてしまっている自分がいる。妙な現象だ。

 じゃあ、血の繋がっていない相手には平気で言えるかと言えば、それもノーだ。

 謝るということは自分の非を認め、相手に気持ちを伝えること。それは簡単なことで中々できることではない。

 自分の非を認めることがどれだけ辛いことか。相手に気持ちを伝えることがどれだけ勇気がいることか。


 いってしまえば、これは一種の『告白』だ。


 相手のことが好きだから告白するし、相手と仲直りしたいから謝る。

 相手に気持ちを伝えることは同じ。違いがあるとすれば、甘酸っぱいのか苦いのかだけ。

 その対象が親しい相手だと、より難易度は上がる。

 佐藤先輩に質問された意図を理解した。すぐにイエスの返事をしなかった時点で、俺は佐藤先輩と同じだった。俺が黙っている姿を見て佐藤先輩も理解したようだ。


「でもまっ。この問題に関しては気にしなくていいよ。これは僕達の問題なんだから」

「……そうですね」


 そりゃあそうだ。赤の他人である俺なんかに直接入り込む余地などない。


 ––––––だが、間接的なら可能だ。


 佐藤先輩が結論付けるということは、二人の話はここで終わりということだろう。


「先輩」

「ん?」

「最後にお願いを聞いてくれますか?」

「……そういえば、最初にお願いがあるって言っていたね。どんなお願いかな?」


 内容を告げると、佐藤先輩はらしくもない驚きと動揺を見せてくれた。

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