番外編 その③ 熾烈なベッド決定戦(後編)



 クイナの言う通り、それはフレームだけの他のとは違い、下布団がベッドに最初から付いているパターンの奴である。


 正直言って、クイナの『可愛い』の基準が俺には分からないから、この際本当に皮ベッドが可愛いのかは置いておく。

 が。


「これもダメ」

「えーっ?!」

「えーじゃない。布団まで皮なんて、汗掻いたらベトベト貼り付いて気持ち悪いぞ?」


 皮でコーティングしたものは汗を吸わない。

 それは皮鎧で訓練してた頃があったからよく知っている。


 訓練中ほどじゃないにしても、寝る時は意外と汗を掻く。

 あとで「やっぱりやーなの!」とか言ってこっちの布団に潜り込まれては厄介だ。


「ほらもうこっちのヤツにしよう? シンプルだし、ちょっとフォルムも丸くて可愛いだろ?」


 そう言って俺が勧めたのは、木造りの普通のベッドだ。

 角は全部丸く削ってるから怪我をしたりはしないだろうし、シンプルなので好みに関わらず長く使えそうな代物である。

 きっと大きくなった時「無難なヤツにしておいて良かった」と思う筈だ。


 そう言うと、クイナは「えーっ?」と渋ったが、ここで一言言葉を付け足す。


「ほら、それなら俺とお揃いだし」

「お揃い……」

「それに、さっきプリン色の布団とスライムの形した枕があったぞ? それを一緒に買って帰ったら、可愛い感じになるんじゃないのか?」


 クイナの場合、好きな色なんかはあれどそれ以外の『好き』は大きく食へと傾いている。

 だからこそ、ここに来る道すがらパッと見えただけのそれらの存在を思い出しそんな提案をしてみると、クイナは少し真面目な顔で考えた。 


 そして。


「まぁ、それなら許してあげても良いの……」


 そう言いながら口を尖らせへっちょを向いて尻尾をモフッと掴んでて遊びしているクイナは、その実ちょっとワクワク顔だ。


 おそらくだけど、「悉く自分の好きを却下されてムッとしてたけど、俺の提案を想像したら意外とまんざらでもなかった」という所だろう。

 その証拠に、耳がめっちゃピピピーンとしている。


「尻尾隠して耳隠さず……」


 笑いを堪えつつ思わずそう呟くくらいには、彼女の気持ちは筒抜けだった。

 



 という訳で、何とか決まったベッドが今、寝室に二つ。


 一つは俺の、普通の布団と普通の枕が乗った至極シンプルなもの。

 そしてもう一つは、山吹色の敷布団に茶色の掛布団が掛かったベッドである。

 プリンに掠ってるのは色合いだけだが、それでもクイナは「プリンの中に入って寝れるの!」とテンションマックスだった。


 因みに枕は、布でできた赤色スライム。

 こっちは赤青緑の三色あったが、いつも美味しい美味しいと言って食べてる緑ではなく、好きな色の赤を選んだ様子だ。



  風呂に入り、後は寝るだけの状態になって二人して寝室に来た。


「今日もちゃんと布団の中に入って寝ろー?」

「はーいなの!」


 良い返事をしてきちんと肩まで布団を引き上げたクイナだが、どうしたのか。

 クルンとうつ伏せに寝返りを打ち、枕を両手でムニンと挟む。


「ねぇアルドー」

「何だ?」

「赤色のスライムって美味しいの?」


 このスライム枕を買って、四日目の夜。

 いつか聞かれると思っていたから調べてみたが。


「赤色スライムはそもそも居ない」


 子供の幻想を打ち砕いてしまってちょっと申し訳ないが、クイナの中の『色的な好き』と『美味しい』は両立できないらしい。

 するとクイナは少し残念そうな顔になった。


 が、枕をムニムニしながら言う。


「じゃぁこの子は幻想種なの。とってもとっても大事にするの」


 一応それなりには量産されている売り物だし、兄弟はわりとその辺に居そうだけどな……とは口には出したりしかなった。


 真面目な顔で枕とにらめっこしながらそう言ったクイナは、俺から見れば『微笑ましい』一択だ。

 「あぁ、大切にしてやれよ」と答えつつ、俺もベッドへとゆっくり身を沈めたのだった。




~~番外編 その③Fin.

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