第8話 一方その頃母国では(2)~国の未来とアルドの実力~


 そんな気持ちを前面に押し出して顔を顰めたシンだったが、レングラムは動じない。

 まぁこれもいつもの事なのであまり気にしないとして、だ。


「どちらにしても、アンタを呼びに行ってたら多分間に合いませんでしたよ」


 そのくらいタイミング的にはギリギリだったとシンは言う。

 


 あの時シンは「アルド殿下が王族から平民に落ちるらしい」「それでか。さっき平民着で城外に向かって歩いてるところを見たぞ」という話を聞くと同時に、持っていた書類を全部ポイッと投げ出して、滅多にしない全力疾走したのである。

 寄り道なんてしていたら、間違いなく無駄走りになっていたに違いない。


 そうでなくともアルドを見送った後で元の場所まで戻っていって、モノの見事に散乱した書類達を拾うのに時間を食った上にその所業が上司にバレてお説教を食らったんだから、間に合わなければ割に合わない対価だった。


「事のあらましは聞いたが……あれはアルドが正しかったんだろうになぁ」

「その点については保証しますよ」


 だってアルドが初期段階で王に見せた証拠群を揃えるのには俺も陰で手伝ってたから……とは流石に口に出さなかったが、その辺はシンが小さな頃から親戚の叔父さんよろしく面倒を見てきたレングラムである。

 察するところはあっただろう。


「……シンよ。正直この国、お前は今後どうなると予想する?」

「まぁアルドが居なければ回らない事や、そもそも始まらない事があったでしょうから、今後は上手く行っても緩やかに衰退……といったところじゃないですかね?」

「あぁ確かアルドは国民に向けた政策関係に主に力を入れてたからなぁー」


 思い出すようにレングラムがそう言って、それにシンも「うんうん」と頷く。

 


 この国の法律は、わりと下々の思想や自由を制限するものが多い。

 それはこの国の昔からの気質であり別に今の国王のせいではないのだが、国民にとってはそんな事は関係無い。

 今感じている不満は必然的に、今の体制へと向けられる。

 

 そんな中、国民に寄り添う政策を新たに取ろう尽力していたのが誰でもないアルドだった。

 確かにアイツは裏工作をどうしようもなく苦手としていて、自分の周りの者達にもそれを禁止していたような甘ちゃんだけど、その分叩いてもホコリが出る心配は無いし国民たちの支持も高かった。


 アイツが居なくなった穴は、誰にも埋める事は出来ない。

 そんな予感がシンにはある。


 アルド程、国民目線で物を考えそれが成せる気概と能力と権力を持っているヤツなんてそうそう居ない。

 だから今後、アイツを追い出した国の未来は仄暗い。


「それでシン、どこに行くと言っておった」


 と、シンの思考をレングラムが横からぶった切ってくる。

 しかしそんな彼のちょっと空気が読めない所はいつもの事だ、シンもあまり気にしない。


「聞いてませんよ、そんな事。まぁアイツも子供じゃぁないんですし、ずっと重荷背負って窮屈な思いをしてたんだ。ちょっとくらい嵌めを外したっていいでしょう。ちゃんと『手紙書け』って言っときましたから、じきにどこに居るか分かりますよ」


 届いたらレングラムさんにも見せますから。

 シンがそんな風に告げれば、彼は「うぬぅー……」と唸りったもののそれ以上の不平は言わない。


「まぁアイツの腕ならばそんじょそこらの魔物相手くらい一捻りだろうし、あまり心配はしておらんが」

「アルドの腕はある程度知ってましたが、獣じゃなくて魔物までとは……アイツも存外化け物だな」


 守られる立場だったくせにレングラムの指導のお陰かせいか、どうやらいっぱしの騎士以上の事が出来るらしい。

 まぁこの国の随一の剣の使い手であり騎士団長でもある彼が言うんだから、アルドの実力に間違いはないんだろうけど。


「……って、あれ? アルドって魔物戦闘したことありましたっけ?」

「いや、一度だけ同行させた事があるが見ていただけだな、その時は」


 え、それ大丈夫なのか?

 シンがそう思っていると、レングラムがニヤリと笑って「しかし」と続ける。


「その時に隣で一通りのノウハウは教えたし、元々アイツの戦闘力は群を抜いてたからな。大丈夫だろ」

「貴方がそう言うんなら、俺に異論の余地は無いですけどね……でもアイツ、大丈夫かな」

「何がだ」

「だってアイツの手合わせの相手って、いつもレングラムさんだったでしょ? 自分の実力がどの程度なのか、ちゃんと把握してないんじゃぁ……」

「あぁまぁ負けるという事は無いだろうが、勝ちという可能性は確かにあるのか」


 ホント、大丈夫かなぁ。

 そんな風に思いながら、シンがゆっくりと天を仰いだ。


 その頃彼が想いを馳せる相手といえば、運悪くガイアウルフの亜種に出逢っちゃうどころか、守るモノを背中に隠して真っ向から対峙中なんていう割と修羅場な状況だったが、彼がそんな事を知る筈も無い。


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