第46話 感情の起伏に忙しいケモ耳っ子
川に服のまま入ってスライム汚れ(?)を落とした後、クイナ耳も尻尾もシュンとさせてペッタペッタと歩いてきた。
落ち込んでいる。
まさかその理由が食い意地だとは思わなかったが、スライムが本当に「甘くておいしい」ものだとしたら、クイナらしい理由ではある。
コイツの甘い物好きは筋金入りだし。
とりあえず落ち込んでシュンっとなったクイナも、濡れネズミのままのクイナもこのまま放ってはおけないだろう。
(仕方がないなぁ。じゃぁまぁとりあえず、今すぐ確実にどうにかできる『濡れネズミ』の方を先に解決するとするか)
心の中で小さく呟き、俺はスッと片手を前に突き出した。
普段クイナを乾かす為にいつも使っている魔法は火魔法と風魔法を併用した温風だけど、落ち込んだ今のクイナの為にも服ごとずぶ濡れな今のクイナをどうにかする為にも、一つ工夫を講じてみる。
いつもより、見た目重視、即効性も求めていこう。
「クイナ、危ないから絶対に動くなよ?」
そう告げておいて、まずはクイナを中心に半径約2メートル。
「――火よ、這え」
自分の中の魔力を練ってそう呟くと、這うような低さで円状に小さな火が地を走る。
すると未だに魔法を「不思議でスゴイもの」と認識しているクイナの瞳が、好奇心にキラリと光った。
(どれだけ落ち込んでたって結局、心が動く瞬間なんて無くせないものなんだよなぁ)
そんな風に思いながら、俺は思わずフッと微笑む。
じゃぁ次だ。
その上をなぞる様に合わせるのは、風。
「風よ、乗れ」
火を消してしまわない様に風の出力バランスを絶妙に保ちながら、威力を高め――。
「舞えっ!」
瞬間、炎を乗せた風が逆巻いた。
らせん状に舞い上がる炎。
円の内部にはカラリと乾いた風が下から上へと駆け抜け、クイナが「ぅわっ!」と小さな声を上げた。
舞い上がり切った炎と風は、フッと姿を消えてしまった。
あとに残ったのは、服ごと全てを一瞬で乾かされたクイナ一人だけ。
彼女は目をパチクリさせた後、服やら耳やら尻尾やらをペタペタモフモフ触って確認。
怖がっている様子は無い。
それどころか予告なく行った事だったのに「何をしたのか」と聞く前に起きた結果をすぐさま検証して回る辺り、度胸があるというか、何というか。
そして検証を終えた後。
「ふっわふわなの!」
全ての水気が飛んで渇いた尻尾を左右にフリフリしながら嬉しそうに成功アピールしてくる辺り、実に無邪気で可愛いらしい。
まぁ確かに先程までは、グッショリ水を含んで重そうだった尻尾である。
軽くてフワフワな仕上がりを喜ぶ気持ちは分かる。
「スゴイのっ! クルクル綺麗でブワァッて温かくて、気がついたらこの通りなの!」
「クイナは魔法、好きか?」
身振り手振りを交えて報告してくれるクイナに、俺はそんな質問をする。
すると彼女は「うんなの!」と即答だ。
そうか、良かった。
せっかく才能があるんだから、好きであるのに越した事は無い。
「なぁクイナ、スライムやっぱり捕まえたいか?」
一見すると、それは唐突な質問だった。
しかし特に疑問を挟む事も無く、彼女はまた「捕まえたいの!」と即答した。
が、ピンッと立っていた耳と尻尾が、何かを思い出しシュンと垂れ下がる。
「でも、爆散しちゃったのー……」
忙しい耳と尻尾だ。
だけどそのひどい起伏をどうにかする術を俺は持っている。
スライムが爆散した理由に俺は、思い当たる節がある。
だから言った。
「魔法を練習する気はあるか?」
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