第43話 毒草は、やーっ! ……ポトリ。
森の入り口まで来た俺たちは、クイナに今日の予定を改めて告げた。
「今日するのは、『薬草採取』と『スライム退治』。中でも最初は薬草採取をしようと思う」
「薬草採取、なの?」
「あぁ。とある草を取って、このバックに入れる。それがクイナのお仕事だ! えーっと……あぁ、この草だな」
そう言って、俺は木の根元に生えている草を一つ摘み取って見せる。
これもレングラムから実地で教えてもらった知識だ。
でなければ、本来王族に必要のないこの手の知識を俺が手に入れられる筈が無い。
……と思えば、やっぱり王族として学んだ事はあの世界だからこそ役に立ったことであって、市井に下りればまるで役立たずのものなんだなぁと自覚する。
だからといって「王族教育の全てが無駄だった」とは言わないけれど、それでもやっぱり生きる術を教えてくれたレングラムには感謝が絶えない。
「これはポーションの素になるんだって。ポーションはさっき買っただろ?」
「前に一回飲んだコトある、瓶の不思議なおクスリのやつ!」
「あぁ、そういうばそうだったな」
彼女に言われて思い出す。
確かにクイナを見つけたあの日に、HPポーションをクイナに一本飲ませた筈だ。
HPポーションだけじゃない。
この薬草はMPポーションにも使われる、かなりメジャーなものなのだ。
それでいて割とどこにでも生えている為、初めての依頼としても今後継続的に受ける安全な依頼としても、ちょうど良い。
「ほら、コレあげるから同じのを取るんだぞ?」
そう言ってクイナに目当ての薬草を手渡すと、彼女は何故かまず最初に臭いを嗅いだ。
そして「普通の草なの」などと言う。
「よぉーく見て、葉っぱの形が同じ草を採取するんだ。出来るだけ根っこが付いてこないように詰むのがミソだぞ?」
俺がそう言うとクイナから「根っこがついてたら邪魔だから……なの?」という質問が来た。
確かにポーションの材料は草部分だけなので、根ごと持って行っても結局切らなければならない。
だから間違ってはいないんだけど。
「いや、どっちかっていうと『次に摂る時の為に』だ。根っこが地中に残っていればそれだけ新しい葉っぱが早く地上に生える」
根だけでも残っていれば養分を土から吸収できる土台が既にあるので、草はそれだけ早く育つ。
どちらにしても根を地中に残す方が都合が良い……というのも、レングラムに教えてもらった事である。
「この辺に生息するのは精々スライムかゴブリンくらいらしいから、もし居ても俺が排除する。だからクイナは薬草取りに集中してくれ」
役割分担だ。
そう言った俺に、クイナは何故かムゥーッと頬を膨らませる。
「クイナはスライムもしたいのーっ!」
「えっ、でも」
「したいのーっ!!」
「そ、そうなのか? うーん、でも一度に両方ともするのは大変だから、まずは薬草取っちゃってからスライムやろう」
そう言って不満顔の彼女を宥めつつ、クイナに作業を促した。
そんな感じだったから、最初の内はちゃんと薬草取りに集中できるか不安だった。
が、クイナはどうやら慣れてきたら熱中する質のようで。
「ぷっちんこ! ぷっちんこ! あっちもこっちもぷっちんこ~♪」
何やら段々リズムに乗って、終いには歌まで作詞作曲しながらプチプチやっている。
「いいぞー、クイナ! ……あ、でもそれは違うやつ」
しゃがんでいるクイナの隣にしゃがみ、二つの葉っぱをそれぞれ指さす。
「ほら、ここ見てみろ。こっちの葉っぱはギザギザしてるけど、そっちのはツルンとしてるだろ?」
「あっ、ホントなのー!」
「分からない内は、こうやって見本と見合わせて確認しながら取ると良く分かるぞ?」
俺の指摘にクイナは素直に納得し、間違っている「ツルン」の方を俺にズイッと出してきた。
「この葉っぱは、何の葉っぱ?」
「あぁそれは、毒草だな」
「どくそう?」
「そう。食べると死ぬほどお腹が痛くなる」
俺はそれをレングラムに身を以って教えてもらった……というのは俺達だけの秘密である。
因みにちょっと齧っただけの俺は普通の腹痛で済んだけど、レングラムは俺の何倍もたくさん食べて、俺の数倍も腹痛を受けて地べたをのたうち回ってた。
その時の事を思い出すと、思わず遠い目になってしまう。
と。
「やーっ!」
悲しい現実を知ったクイナは、次の瞬間例の葉っぱを渾身の力で投げていた。
が、所詮は子供の力だ。
すぐ近くに軽く打ちあがった後、すぐ目の前にポテリと着地する。
直線飛距離にして、30センチくらいだろうか。
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