第二章:街での宿暮らし。生活基盤を確立する。
第一節:歩き食いは超痛い
第24話 街に着いた。肉を買う。
馬車を降りると、目の前には淡い朱色に染まった街並みが広がっていた。
道の両端に立ち並ぶ木造の建築物。
店頭には所狭しと売り物がひしめいていて、凄い人込みだ。
時間的に、灯りを付ける店もあれば店じまいの準備を始めるところもある。
それらも含めて、俺は「活気に満ちてる街だなぁ」という感想を抱いた。
首都なので、この国の城のお膝元だ。
俺も一度は来たことがある筈なのだが、今になって初めてそんな感想を抱くあたり他国の城下の雰囲気まで気にする余裕が無かったらしい。
が、不思議なものだ。
(種族の違いこそあれど、人の多さも店数もルドヴィカ王国と大して変わらない。なのに「活気に満ちてる」と思う理由は、多分街の人たちの顔つき……かな?)
そう思いながら街の人々の顔を見る。
仕事で浮かべる笑顔もあれば屈託のない笑顔もある。
悔しそうな人も居れば、少し苦しそうに重い荷物を持ちあげる人だっている。
しかしそれさえも、この街では彩の様に見えるのだから本当に不思議でならない。
こんな風に新たな世界に出会えた事だけでも、既に「この国に来てよかった」と思える。
が、出会いもあれば別れもあるもので。
クイナも馬車を降りた所で、ダンノとメルティーとは別れる事になった。
ダンノと手を繋いで歩いていくメルティー。
その背中を眺めながら、クイナは寂しそうに「メルティ―……」と呟く。
しっぽも耳も、あからさまにショボン状態。
そんな彼女の肩にポンと手を置き「大丈夫」と言ってやれば、縋る様に彼女が俺を見上げてきた。
まるで今生の別れかの様な素振りだ。
そう思ったら不謹慎だと分かっていても思わず笑ってしまいそうになる。
「そんな顔してんなよ」
涙目のクイナにそう言えば消え入るような「だって~……」の声が返ってきた。
だから言ってやったのだ。
また会いに行けばいいだろ、って。
「また……会えるの?」
「もちろんだ。ダンノさんがやってるっていう商会の名前は聞いてるし、俺達だってこれからはこの街に住むんだぞ? いつでも会える。身の回りの事が落ち着いたら二人で行ってみればいいだろ?」
な? だから大丈夫。
もう一度そう念を押せば、やっとクイナの表情が綻んだ。
「ぜっ、絶対! 絶対なのー!」
「はいはい、絶対な」
俺の腰に飛ぶように抱き着きブラーンと足を浮かせたクイナは、メルティ―とはよっぽど気が合うんだろう。
でなければ、こんなアグレッシブな方法で再会をせがんできたりしない。
そこまで再会を喜ぶくらいの友達だ、その縁を断ち切らずにいてやりたいなと保護者ながらに考える。
が。
「おーい、クイナいい加減に離れろー? 行きたい所があるってのに歩きにくくて
「行きたい所?」
「そ。良い所だぞ」
「っ!」
俺の『良い所』発言に、彼女はすぐに地に足を付けた。
そんな実に分かり易いクイナに、俺は「さて」と声を上げて手を差し出す。
「人が多いから、ここからは手を繋ぐぞー。で、この後はちょっと俺の『やりたい事』に付き合ってほしいんだよ」
「『やりたい事』?」
「そう。前に言っただろ? 俺の目的は『ずっとやりたかった事をやっていく事だ』って。クイナにも一緒にやってほしくて。どうだ?」
そう尋ねると元気のいい「うんなの!」が返ってきた。
だから俺は「よし、じゃぁ行こう!」と、意気揚々と歩き出す。
街を歩けば、この国の人種の豊富さを改めて実感した。
「ねぇアルド、あの人は?」
「エルフだな」
「あっちは?」
「ドワーフ」
「じゃぁあの人」
「あの人はお前と同じ獣人――ってそれは流石に分かるだろ」
「えへへー」
「バレたの」みたいな顔をしながら俺を見上げてくるクイナに、こっちまで楽しくなって笑う。
俺と同じ人族もいはするが、数はそう多くない。
しかし少数派の彼らを含めて、特定の種族がただそれだけで虐げられているといった様子は見られなかった。
どうやらこの国は、謳い文句そのままに種族間の共存が上手く成り立ってるようだ。
と、しばらくの街を歩いていた所で、どこからともなく良い香りが鼻を掠めた。
これはアレだ、焼ける肉とタレの良い香り。
「あぁ、あれだな」
少し見回してその正体を突き止めれば、やはりそこには思った通り出店屋台が立っていた。
掲げられたのぼりには、ここら一帯の共通語で『オーク肉の串焼き』と大きく宣伝されている。
「よしっ、行くぞクイナ!」
隣を見下ろして弾む声でそう言えば、少し驚いたような顔のクイナが「えっ、うん?」と答えた。
ちょっとテンションが上がってしまって、それまではちゃんとクイナに合わせてた歩幅が思わず大きくなっちゃったが、クイナもそんな俺に合わせて小走りで付いてきてくれる。
そうして俺達は人の往来の流れを斜めに横切り、その屋台の前まで抜けた。
「おう、らっしゃい!」
俺達が客だと気が付いた店番の男が、俺達に良い笑顔を向けてくる。
その男の頬には薄っすら、うろこの様な模様がある。
おそらく彼は、竜族か竜人族の血を引いてるんだろう。
日に焼けた黒い肌にスキンヘッド、体も結構なゴリマッチョの男で、それでもどことなく爽やか印象なのは、多分飾りっ気の無い笑顔のお陰なんだと思う。
そんな彼に、はやる気持ちを押さえつつ俺はまずこう尋ねた。
「あの、共通通貨は使えるか?」
「あぁ勿論だ!」
「良かった、じゃぁ俺とこの子のとで2串ください」
「あいよ!」
と、俺の手をクイッと引っ張られた。
「どうした? クイナ」
「ねぇアルド、これを食べるの?」
「あぁそうだそ! ……って、あ。そういえば聞くの忘れてたけど、お前オーク肉は食べれ……そうだな」
「うん、好きなの!」
肉類は好きだと言ってたが、「もしかして肉の種類によっては苦手があるかもしれなかった!」と少し焦りながら聞いた。
しかし杞憂だったようだ。
だって耳も尻尾もめっちゃ「嬉しい」を体現してるし、何より目がキラッキラと喜びに煌めてるんだから。
もしこれで「苦手」と言われたら、思いきり「嘘つけ!」と叫ぶところだ。
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