神社の向こう側には神様の世界が広がっている
桜瀬るい
序幕
神様なんて存在しないんだよ。
そう言われたのは一体いつのことだったか。幼い頃だったような気もするし、つい最近かもしれない。
この時、私がなんて返したのかすらも覚えていない。それくらい曖昧な記憶だった。
「行ってきまぁす」
住宅街が広がる風景の一角、決して豪邸とはいえない古びた日本家屋がぽつんと佇んでいる。平家の、築何十年も前のそれは、他の新築のアパートと同じように太陽に照らされていた。
「いってらっしゃい、音羽。気をつけるのよ」
「うん、お母さんもね。あ、バスの時間遅れちゃうからもう行くね」
引き戸をガラリと開けて玄関を出る。
音羽と呼ばれた少女は、鞄を手に坂を下っていった。
♢
佐伯
古びた日本家屋に病弱な母と2人暮らし。父は単身赴任で違う県に異動、当たり前だが、母は働きに行っていないため音羽がバイトをして生活している。
高校2年生、恋愛や部活、勉強に友情などさまざまなことを一気にできる貴重な時間。勉強以外のそれら全て、バイトに当ててしまっていた。
「あ、音ちゃんおはよう〜!今日もバスの時間ギリギリだねぇ…もう少しこっちの方に住んだら?」
バスに駆け込み、一息ついたところで友達の茜が音羽に近づき、小声でそう声をかける。
「あぁ、おはよう。いやぁ私、あの家が好きだからさ、それに家賃も高いし」
にへらと笑い、左手を後頭部に持っていく。
その表情と仕草は、いかにも"その場をなんとかやり過ごしています"と言っているようで、それは茜をなんとも言えない気持ちにさせるには十分だった。
『次は
乗客の1人が「降ります」というボタンを押し、それを合図に一部の他の乗客も降りる準備を始める。
それに便乗し、音羽と茜もかばんを肩に下げ、ICカードを制服のポケットから取り出した。
神社の向こう側には神様の世界が広がっている 桜瀬るい @Rui_Ouse
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。神社の向こう側には神様の世界が広がっているの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます